異郷へのまなざし―『古写真・絵葉書で旅する東アジア150年』刊行記念特集

 

本書の概要

20世紀初め、日本人が写真と旅行記・手紙・新聞等によって日本にいながらにして世界を知ることができるようになった時代で、携帯用小型カメラの開発、近代郵便制度の確立、絵はがきの製作・販売など、諸条件が揃ったのがその時期でした。100年の時間が経ち、古写真や絵葉書の劣化が激しく、また、所蔵機関で資料的価値が認められずに廃棄されることも多くあります。幸いにも学習院大学には教材として使われたガラス乾板や絵葉書資料が数千点以上残されています。これらの資料には100年前のアジア・日本の風景・風俗文化、歴史遺産(建築物)の姿が残されています。
本書は、150年間に日本人が訪れ、多くの古写真・絵葉書・旅行記が残されている東アジアの諸都市をピックアップし、都市の街並みや遺跡を写した学習院大学所蔵の絵葉書・古写真と同じアングルから撮影した現代の写真を比較し、歴史遺産の保護・破壊の過程をたどるものです。
刊行にあたっては、古い写真や絵葉書をもとにしながらも、現在の状況を対比できる工夫に努め、それぞれの都市を歩くための、簡単な地図も添えてあります。なお、全体の構成は、「中国東北部(旧満洲)を旅する」「華北を旅する」「華南を旅する」「台湾を旅する」「朝鮮半島を旅する」に分けて解説し、「旅の道標」や「あの作品の舞台」といったコラムを挿入しました。     (編者 村松弘一)

 

本書の意義

本書は、画像研究、都市・建築研究、観光研究、文学研究を繋ぎ合わせる意欲的な試みです。各論考は、戦前の絵葉書や写真が中国や台湾、シベリアや朝鮮半島、南洋への関心を高め、異国の旅への恋慕、海外への移住や資本投資への夢をいざなう役割をもはたす社会的記号であったことを示唆しています。
本書が示すように、多様な機能を備える都市や建築が今日の社会にとっていかなる「遺産」としての意味を持ちうるのかを見出そうとする点は、今後も継承されてよいでしょう。
「旅」というソフトなアクティビティを前面にだしながらも、突き詰めていうと、その背後には簡単に建築を破壊する日本の社会、歴史的意義を看過したままリノベーションを進める中国の文化への現代的批判が秘められているからです。                    (編者 貴志俊彦)

 

本書で紹介する写真

 

【大連:大連ヤマトホテル(現・大連賓館)】

学習院大学所蔵

 

原 信太郎アレシャンドレ撮影(2017年)

 

大連随一の高級ホテルで、軍部や政財界の要人らが多く投宿した。1909年に起工し、1914年に竣工。115の客室を擁し、食堂、舞踏室、玉突室、読書室、酒場などがあった。 現在は大連賓館となっている。 (原 信太郎アレシャンドレ)

 

【上海:ブロードウェイ・マンション(現・上海大廈)】

学習院大学所蔵

 

犬飼崇人撮影(2017年)

 

1934年竣工のブロードウェイ・マンションは、ニューヨークでの流行にならって高層階の面積が徐々に小さくなるデザインとなった。所有者のサッスーン財閥は、ヴィクター・サッスーンのときに事業の中心を貿易から不動産へと移し、上海のランドマークとなる建物を次々に建てた。蘇州河に架かるのがガーデン・ブリッジ。租界設立当初は渡し船で行き来したが、1856年に木橋ができ、1873年に架けかえられ、今日に残るのはキングズミル 設計による鉄橋(1906年竣工)である。1926年の調査では上海で交通量がもっとも多い場所とされた。写真(2017年撮影)と比べると、奥に見える浦東の変化が著しい。 (犬飼崇人)

 

【台南:赤崁楼】

学習院大学所蔵

 

村松弘一撮影(2018年)

 

別名紅毛楼とも称される。防御拠点としてオランダ人によって造られ、清代には火薬庫として利用されたが、その後、荒廃し、19世紀末には海神廟・文昌閣として新たに生まれ変わった。日本統治期には台南市長の羽鳥文男(1892~1975)によって孔子廟とともに修築された。 (村松弘一)

 

【ソウル:朝鮮神宮】

学習院大学所蔵

 

金耿昊・小志戸前宏茂撮影(2015年)

 

植民地朝鮮の「総鎮守」として1925年南山に建てられた。祭神は天照大神と明治天皇であり、社格は官幣大社。敗戦後はアメリカ軍政庁の許可を得て日本の宮司らにより解体・「奉焼」された。現在は南山公園となっている。 (金耿昊・小志戸前宏茂)

 

都市の見所ピックアップ(執筆者一言コメント)

【旅順】 戦前の修学旅行生の日露戦争聖地巡礼。絵はがきで当時の雰囲気が追体験できます。(大知聖子)

【瀋陽】 王朝の歴史を語る故宮・皇陵・旧城、近代建築が立ち連なる鉄道付属地、その両者の風貌が混ざり合う商埠地、栄光と傷痕を背負う味わい深い大陸都市。(呉修喆)

【撫順】 炭鉱経営のためにほぼゼロから作り上げられた輝かしい文化都市、その裏に聞こえる鉱夫の悲しいうたもお忘れなく。(呉修喆)

【長春】 1932年、中国東北部の中規模都市は「首都」に生まれ変わった。大通りには美しい建築が立ち並び、豊かな緑が街を彩る。米国人も賞賛した壮大な都市計画の遺産は今も残されている。(石野一晴)

【済南】 旧市街地は泉の都であり、新市街地は日本・ドイツの鉄道の都。古都と近代国家の新都が味わえます。(大知聖子)

【杭州】 西湖(太字)。西湖を見ずにケッコウというなかれ。もう少し細かく言えば、孤山。写真 の孤山をみたら、近所のお寺か神社か、古い散策池を思い出して見てください。きっと 、身近にある西湖のかけらに気づくことでしょう。(小二田章)

【蘇州】 何千年もの間に詠われ続けてきた麗しき水郷、幾多の戦火を浴びても蘇る奇跡の都、名実ともに世界の文化遺産である。(呉修喆)

【ソウル】 ソウルは14世紀末に朝鮮王朝の都が置かれて以来現在まで、統治者が変わっても朝鮮半島の中核都市としてあり続けています。都という意味の名を持つこの都市の歴史を、王宮や近代建築などの古い写真とともにたどってみませんか。(小志戸前宏茂)

 

詳細はこちらから

古写真・絵葉書で旅する東アジア150年

古写真・絵葉書で旅する東アジア150年

村松弘一・貴志俊彦 編

定価4,104円(本体3,800円)

詳細今すぐ購入

 


関連書籍

戦時上海グレーゾーン

アジア遊学 205

戦時上海グレーゾーン

堀井弘一郎・木田隆文 編

定価2,592円(本体2,400円)

詳細今すぐ購入

上海租界の劇場文化

アジア遊学 183

上海租界の劇場文化

大橋毅彦・関根真保・藤田拓之 編

定価2,592円(本体2,400円)

詳細今すぐ購入

昭和文学の上海体験

昭和文学の上海体験

大橋毅彦 著

定価6,480円(本体6,000円)

詳細今すぐ購入