私たちはいかに犬と生きてきたか、これからどう生きていくのか
  ―『犬からみた人類史』刊行記念特集

 

特集について

 犬は、人類の「最良の友」とよく言われます。旧石器時代にオオカミが家畜化され、犬が誕生して以来、犬は私たちにとって最も身近な動物となりました。しかし、まだ解明しきれていない謎がたくさん残っています。
 本書『犬からみた人類史』は動物心理学、遺伝学、生態学、動物行動学から、日本史、民俗学、文化人類学、さらには現役の猟師まで、23名の専門家が集い、実は奥が深い“犬と人の関係”にフォーカスをあて、新しい人類史の構築にチャレンジした一冊です。
 特集では編者の大石高典先生、近藤祉秋先生、池田光穂先生に、インタビューをおこない、本書を編むきっかけから魅力まで、本書未収載の写真も交えてお答えいただきました。

 

 

―そもそも犬から人類史を見る、とはどのような試みなのでしょうか?

 犬は、人間の社会に深く入り込みながらも人ではない、という不思議な存在になっています。人間と他の動物の間にあって、トリックスター的媒介者(メディア)の役割を担っているとも言える。その犬と人間の間の微妙な距離感の揺れから生まれる視差を使って、人類史を捉え直してみたらどんなことが見えてくるんだろう、というのが本書のもとになっているアイデアです。(大石)


古代メキシコの人面犬。
1,000年~300年前に栄えた西部メキシコのコリマ様式による人面をつけた犬の土偶
(尻尾の部分より液体を注入できる)。
池田光穂撮影、Museum Volkenkunde, Leiden(オランダ)/2017年

 

 これまでの人類史は、人間の最大のパートナーである犬に関するリスペクトを欠き、あまりにも人類全体のエゴに占有されすぎていました。犬のみならず身近な動物から人間を反省的に見直すことで、地球温暖化や希少生物の絶滅など、地球全体の保全と持続的発展に寄与したいと考えています。(池田)

 

―数ある動物のなかでなぜ犬をテーマに選んだのでしょうか?

 犬は、人間とともに地球上に遍在する動物だからです。犬と何らかの付き合いを持っている、という意味では日本に住んでいても、アフリカの熱帯林やアラスカのタイガ地帯に住んでいても変わらないわけです。地域や時代を越えて人間との関わりを考えるには格好の対象だと思ったわけです。(大石)


アフリカの熱帯林に住む赤ちゃんと犬。
狩猟採集民バカのキャンプには、狩猟のための犬がかかせません。
勇敢な犬は、暮らしのパートナーでもあります。
大石高典撮影、カメルーン東部州/2015年

 

 誰もが驚くのですが、人類最初の家畜とは牛や馬や羊ではなく犬ということを知った時の単純な驚きですね。僕たちはペットや家畜など人間が馴致(じゅんち)した動物の文化史を書くことを目指しましたが、その最初の皮切りは当然のことながらこの由緒ある犬に決まっています!(池田)

 

―ズバリ犬はお好きですか?

 好きです!調査地のアラスカで厳寒期の罠猟に出かけるとき、犬ぞりを使っていました(ただし、冬の移動手段はスノーモービルが一般的です)。懸命にそりを引く犬たちの姿はたくましいです。日本でも、犬ぞりがやりたいです。(近藤)

 


犬ぞりに乗る内陸アラスカ先住民の青年。
近藤祉秋撮影、アメリカ合衆国アラスカ州ニコライ村周辺/2015年

 

 我々の海外のフィールドでは野犬や厄介な番犬がいるので、連中ははっきり言ってそれほど好きではありません。日本のペット用の小型犬はCMなどで擬人化されていて可愛いですが、野趣あふれる海外の犬ほどの頼もしさはありません。ズバリ世界の犬は多様性が凄いです!(池田)

 

―本書は進化生物学から、実際の狩猟現場まで、様々なジャンルをまとめたものになりますが、編集の過程で新しい気付きなどはありましたか?

 この本では、異なる立場の執筆者の間でかなり真面目な議論をしました。編集と原稿のブラッシュアップのために都合6回ほど研究会をやったのですが、その中でさまざまなアプローチからの知見が、絡み合っている様を体感できたのはスリリングな体験でした(*)。その過程で考えたことの一部を序章に盛り込みました。全体をあえて「進化」とか「家畜化」などといった大きな概念で括ってしまわずに、議論ができたのは良かったと思います。(大石)

 


刊行に向けた研究会の様子。
大石高典撮影、北海道大学/2018年

 

―今後わたしたちは犬とどのような付き合い方をしていくべきでしょうか?

 この質問は犬たちに聞くべきものかもしれませんが、あえて言うならば、さまざまな付き合い方があることの理解は大前提です。犬は、伴侶(パートナー)であり、食肉であり、動力源であり、猟具であり、…(中略)…消費者でもあります。自分が理想とする犬との付き合い方をやみくもに他の”犬と人”に押し付けないことが大事だと私は思います。(近藤)

 


エゴマの葉をたくさん入れた犬肉の鍋。
犬肉食の文化は、日本国内でも見られる。
大石高典撮影、大阪市内/2015年

 

―まだまだ可能性が感じられる「狗類学」ですが、今後どのような展望をお考えでしょうか?

 最初に言ったように、犬はメディアなんです。制度に疲弊した学問を開いていくという意味では、この特徴を活かした参加型の研究として、実践活動としても展開して行けたら面白いと思っています。学術的には、中世以降の歴史学や獣医学など、今回の論集では扱えなかった重要な論点や方法論があります。分野間の壁を越えながら対話を深めていきたいですね。(大石)

 

 狗類学(こうるいがく)とは、犬による、犬のための、犬についての学問です。言い方をかえると、世界をみる見方を180度転換して、犬の視点から考える学問というよりも「生き方の指針」であると思います。さあ、今日(の授業で)は犬の気持ちになって、人間語禁止としましょう!@僕の教室の授業です。(池田)

 


モンゴル草原の牧羊犬。
近寄ってきた日本人学生に、耳を平らにし尻尾を巻いて服従の姿勢をみせる。
モンゴルの人たちは犬に馴れ馴れしくしないので、飼い主が不在で、単独行動の時でかつ自分のテリトリー意識がない時には極めておとなしい。
池田光穂撮影、モンゴル共和国/2013年

 

―読者に向けて、本書のおすすめポイントを教えてください。

 何と言っても、扱われているテーマの多様性が売りです。最初は関心のあるテーマの章から読み進めていただき、序章を参考に他の章とのつながりにもぜひ目を向けてください。本書によく出てくる用語についてまとめたグロッサリーもぜひ活用していただきたいです(*)。あなたの目の前に「狗類学」の新しい地平が開けていることでしょう!(近藤)

 

 

詳細はこちらから

犬からみた人類史

犬からみた人類史

大石高典・近藤祉秋・池田光穂 編

定価4,104円(本体3,800円)

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