『キーピング・アーカイブズ Keeping Archives』連載第1回

 

今回から数回にわたって『キーピング・アーカイブズ Keeping Archives』(オーストラリア・アーキビスト協会発行)の邦訳(部分)を連載させていただくことになりました。

なお、今回のweb公開に関しましては、オーストラリア・アーキビスト協会から格別のご配慮をいただきました。ここに御礼申し上げます。

 

連載にあたって

本テキストは、オーストラリア・アーキビスト協会(The Australian Society of Archivists Inc.)による”Keeping Archives”の第17章および第18章の和訳である。

1986年以来、アーカイブズ学の代表的な教科書として版を重ねてきた同書は、アーキビスト養成を目的として日本で初めて学習院大学に設置された大学院専攻課程においても、重要文献の一つに指定されている。「アーカイブズ」という言葉から古文書のような紙資料を思い浮かべる方も多いかもしれないが、アーカイブズとは本来、メディアを問うものではない。

2008年に増補改訂された”Keeping Archives”の第3版は全18章から成り、評価・選別や編成・記述といった重要事項の解説に加え、「紙以外」のメディアに関する章も充実している。実は国内のアーカイブズ学において、「紙以外」のメディアの中でもとくに視聴覚資料に関する研究は長らく見過ごされてきた。17章の前半で視聴覚資料の概要を、そして後半で「音声記録」を取り上げ、続く18章で映画やテレビ番組など「動的映像」を扱う本書を糸口として、アーカイブズとしての視聴覚資料の魅力をぜひ発見していただきたい。

 

第17章|音声記録 sound recordings

本章の概要

動的映像と音声を記録・保持する技術がこの世に出現して1世紀以上になる。アーカイブズ環境に仲間入りした視聴覚メディアがその数量を増やしているのは、現代のコミュニケーションの様式や形態を反映してのことだ。今や、より多くの情報が読み書きよりむしろ視聴覚メディアを通して、公共の場に届けられようとしている。現に、ほとんどのアーカイブズは単なる文字の記録のみから成るわけではない。ところが、視聴覚資料は未だ例外的かつ〈異質〉なものとみなされることが少なくない。相変わらずアーカイブズ環境における視聴覚メディアへの取り組みがおよび腰なのはそのためだが、本来は、既に定着している文字のメディアと同様に管理されるべきなのだ。

本章と次章(第18章 動的映像)では、アーカイブズにおける音声記録と動的映像記録を取り上げる。多くの特徴を共有する両者だけに、視聴覚記録という一つのくくりで考えるところからはじめてみよう。続いて、いかに音声記録を同定/識別し、保存し、そしてアクセス可能にするかを論じる。第18章では、動的映像の場合の同定/識別・保存・アクセスに焦点を絞るとしよう。

両章はいずれも、あなたの手元にある音声記録や動的映像の種別、重要性、そして長期管理の方法を理解する手助けとなるものだ。また次章では、視聴覚アーカイブ活動のプロジェクトに着手する方法にも言及する。尚、両章とも付録CDには、さらなる情報源が含まれている〔※本テキストでは割愛〕。

 

1. 視聴覚記録はどう違うのか?

多くのアーキビストが視聴覚記録を棚に放置している。決してそうしたいわけではないのだが、メディアに馴染みがなく、再生用の機材を持たず、仮に機材があったとしてもメンテナンスがなされていないのだ。コンテンツを知る手がかりも何もないことだって珍しくはない。正確な、あるいは有用なリストが添えられているとも限らず、ラベルに書かれていることが曖昧だったり、技術的過ぎて意味がわからなかったりもする。こんなことでは一連の作業に優先順位をつけて調査を先に進めることなど、できはしない。

あらゆる記録グループがそうであるように、視聴覚記録のコンテンツやメディアも多種多様だ。例えばあるアーカイブズに、破損した建築物の修繕の様子を撮影したビデオテープ、商品テスト用の16mmフィルム、8mmホームムービー、演説や行事の録音、監視カメラの録画、特定の団体にまつわるテレビ録画やラジオ録音が入ってくることもある。多くは古めかしい時代遅れのフォーマットだろうが、CDに記録されたデジタルサウンド、DVDに記録された動的映像、時代遅れのメディアの現代版コピー、事業活動のドキュメンテーションなど、作成後間もない新しいメディアの記録が一緒に届いてもおかしくない。



結局、視聴覚記録の何が異質なのだろう? 文化的アーティファクトとしての視聴覚記録は、文字の記録とはかなり異なる機能を持つ。特定の時と場を蘇らせる視聴覚記録の力は、他の資料にない独特の文化的な視点や証拠としての視点を持つ。そのことが、視聴覚記録の潜在的価値を歴史的、文化的、そして経済的に高めている。

視聴覚記録は、技術的な面でアーキビストにとって高いハードルとなることもある。馴染みが薄いというのがその最大の要因だ。我々の日常生活の中で日増しに存在感を高めつつあるが、専門性の高いメディアやそれにまつわる専門用語に慣れ親しんでいるアーキビストはまだ少ない。

■メディアの不安定性
伝統的な形式の記録に比べて、一般的に視聴覚記録は堅牢とは言い難く、放置するとだめになってしまう。たとえ理想からほど遠い環境でも長期的に残存することがある紙の記録と違い、視聴覚記録の多くは、積極的な保存措置を施して最適な収蔵条件に置かない限り急速に劣化してしまう。気温や湿気の上昇だけで劣化がはじまったり、取り扱いを誤っただけで決定的な損傷につながったりもする。メディアによっては、恒常的に乾燥した状態でも劣化する素材が用いられている。その典型例が映画フィルムなどアセテート・ベースのフィルムに起こる〈ビネガーシンドローム〉だ。視聴覚メディアの技術革新は民間企業の専売特許で、アーカイブズ側の要求が通ることは滅多にない。視聴覚メディアの保存の問題については、本章の後半と次章(18章)で述べよう。メディアを問わず保存の問題は第4章(保存)が扱っている。

■テクノロジーへの依存
すべての視聴覚記録には、コンテンツの視聴とアクセスのための再生機が必要であり、良好な状態になければ情報を伝達できず、たとえ僅かな損傷であっても記録のクオリティと有用性に深刻な影響を与えかねない。劣化と損傷を極力回避するような取り扱い方法や収蔵設備が求められるのはそのためだ。しかし、収蔵設備を整えるだけでは記録の残存を確かなものにはできない。テクノロジー依存のもう一つの側面として、視聴覚記録の再生用およびコピー作成用の機材を正常に使用できる状態に維持しておかねばならない。アーカイブズには、コレクションに含まれるあらゆるメディアに対応する一連の設備を備えることが求められる。つまりスチル写真・カセットテープ・8mmフィルム・VHSテープを含むコレクションであるなら、メディアごとに適した機材を入手すべきなのだ。

■陳腐化するテクノロジー
テクノロジーの変遷がこうしたメディアに与える影響を考えると、急激な陳腐化はやはり避けては通れない。たとえ記録自体が良好な状態にあっても、それを再生するのに必要な技術が息絶えてしまうことがあるからだ。長期的管理を技術的な手段との関係性から考えると、何らかのメディアによるコピー作成がどうしても必要とされる。なぜなら、技術が手に入らなくなることもあれば、再生できないほど酷く記録が劣化することもあるからだ。記録と共に、その記録を保存してアクセスを確保する技術を維持するのか、あるいは、次世代の視聴覚メディアにコンテンツを移し替えるのか、こうして選択を迫られることになる。

 

■資源消費型の記録
視聴覚資料に関連する作業には長い時間を要することがある。例えばコンテンツのドキュメンテーション・評価・保存用コピーの作成など基本的な視聴覚アーカイブ活動を行うため、資料を再生する必要が生じることも少なくないだろう。記録が再生できる状態にあるとして、一般的に再生やコピー作成には、そのものの時間、つまり20分のテープなら20分の再生時間に事務処理を加えた時間がかかる。コンテンツが複合的なアイテムにまたがる可能性もあり、そうなるとアイテムを比較して相違点と相似点を判断する必要もあるだろう。こうした取り扱い・調査研究・点検などの作業の影響によって、評価・選別・記述・保存・コピー作成・アクセス提供といったあらゆる視聴覚アーカイブ業務において、より多くの人材や資金が要求されるかもしれない。

 

2. 視聴覚アーカイブ活動という領域

一般的な視聴覚アーカイブ活動がカバーするのは、従来型もしくは標準的な記録メディアのために行われる活動範囲と同じだ。第一の役割とされる保護の責務は、文字の記録と同様に視聴覚記録にも当てはまるもので、そこにはコレクションの構築・整理・ドキュメンテーション・維持・保存・アクセス提供といった活動も含まれる。
視聴覚アーカイブ活動は独自に現れて進化した領域だ。ユネスコ総会で「動的映像の保護および保存に関する勧告」が可決されたのは、やっと1980年のことだった。これによって初めて、動的映像が世界の文化遺産の一部であると宣言されたのだ。
機関が異なれば、視聴覚記録の収集・整理の方法も若干異なる。視聴覚記録は、広い意味でのライブラリー・アーカイブズ・ミュージアムおよび視聴覚記録を専門的に収集する使命を持つ機関に存在している。こうした機関に採用されている哲学と実践の違いに意識を向けることは有益だ。

専門的な視聴覚アーカイブは、コレクションの文化的価値または潜在的な再利用の可能性に目を向けるものだ。概して、収集対象となるのは音楽産業や報道機関の特定の製作物、視聴覚メディアを使ったアート作品、アマチュア作品、そしてメディア技術の変遷を理解するためのモノ資料だ。視聴覚アーカイブにおいては、例えば映画フィルムや音声録音といった記録メディアが収集方針の中心に据えられている。文書ファイル・脚本・スチル写真などその他の記録は範囲が限られ、関連するドキュメンテーションの補足といった程度の位置付けだろう。オーストラリアにおいて、「国立フィルム&サウンドアーカイブは国の視聴覚遺産を収集・保存し、確実に永久的利用を可能にすることを目指す」(NFSA 2006)とされている。

第16章(図版、写真、モノ資料)で、モノ資料をその他のアーカイブズ記録から分離するのか、それとも一緒にするのか、方針の採択が議論されているように、視聴覚記録とその他のメディアのあいだには管理上の緊張関係がある。
視聴覚記録は、政府・企業その他の団体の多種多様な業務活動において、研修・広報活動・科学的または技術的調査研究など多くの異なる機能に付随して生み出されることがある。そのように見なすのがトータル・アーカイブズ的なアプローチだ。本章と次章では、アーカイブズとしての視聴覚記録の総合的な管理に目を向けるため、基本的にはトータル・アーカイブズのアプローチに従うことにする。この場合、アーカイブズとして視聴覚記録を管理するための鍵は、各種メディアを長期的に保存する、そしてアーカイブズの利用者が入手できるようにするといった要求を確実に満たしつつ、知的コントロールの従来的な方策を視聴覚資料に当てはめてみることにある。

(第2回につづく)

Keeping Archives, 3rd
Copyright (c) The Australian Society of Archivists, 2008.
First published by The Australian Society of Archivists.

オーストラリア・アーキビスト協会からのご配慮に厚く御礼申し上げます。

 

翻訳者プロフィール

NPO法人映画保存協会
http://www.filmpres.org/
映画保存協会(Film Preservation Society, FPS)は映画フィルムを文化財として保存する活動に取り組むNPO法人です。
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