『キーピング・アーカイブズ Keeping Archives』連載第14回

 

2. 保存


[1]切り離せない動的映像の保存とアクセス

あらゆる記録において、保存とアクセスは持ちつ持たれつの関係にある。我々は使うために保存し、使うことで記録を認識し、それゆえに保存したいと願う。アクセス提供を計画するなら、その方策は保存に関する決定に含まれるべきだ。このことは動的映像にとって、とりわけ二つの理由から重要だ。まず、複数回の保存処置には耐えられないほど脆い記録があること。次に、保存の処置には多くの資金と人材が必要となることだ。 アクセスと保存という二つの活動は、思考の上では異なっている。アクセスについては、誰もが資料をできる限り素早く効率的に入手したい。一方で保存については、誰もが長期的な使用のためにコンテンツを保護したい。見せるために保存するのは、既に述べた通りだ。
アクセスだけを単独で考えると、混乱を来すかもしれない。例えば、コンテンツへのアクセスを可能にするため、ある記録をVHSにコピーするとしよう。すると、研究者によっては、その記録を使って新たな作品を制作するため、より質の高いフォーマットを要求するかもしれない。高品質のフォーマットは、オリジナルの資産を安定したフォーマットにキャプチャするという保存要求にも見合っているように思われる。
同様に、保存だけを単独で考えても混乱するばかりだ。未使用の、劣化しているコレクションが目の前にあれば、当然ながら保存の必要性がアクセス要求に勝る。例えば、保存の原則に従ってプロ仕様のビデオテープのフォーマットに複製する決断を下すとしよう。そうなると今度は、簡単にはアクセスを提供できないことになる。保存作業が終わった後で、アクセスの切り捨てが大きな過失となる。
あらゆる保存作業がそうであるように、万能かつ手っ取り早い解決法など存在しない。決断はケースバイケースで下すもので、あらゆる可能性を考慮せねばならない。例えば、記録の再利用の潜在性に注目するシナリオを想定してみよう。将来のあらゆる使途に見合う品質のコピーを用意するなら、プロ仕様のビデオテープのフォーマットを選ぶことになる。しかしながら、オリジナルは質の低いVHSだ。元来の質の悪さは、質の高いダビングによって誠実に複製されてしまうので、新たな作品制作に利用したいエンドユーザーにとって、再利用の価値はほとんどない。
このシナリオから、アクセス提供の方法の決定まで、保存の原則を適用することの利点を思い描いてみよう。VHSのシナリオにおいて、保存の原則に従えば、オリジナルの特性を維持するフォーマットがもたらされるだろう。しかし、直接デジタルファイルに保存して、インターネットでのアクセスを可能にするという選択もある。VHSのオリジナルをデジタル・ベータカムに複製しても、保存用にもアクセス用にも何の利点もないからだ。
また、フォーマット―どのような方法と理由でその物質的な特性を伴って作成されたのか―を理解することの利点も思い描いてみよう。

[2]保存の主要原則

保存の重要な第一原則のいくつかは、第4章(保存)と第17章(録音)において主張されている。

●何はともあれ、害を及ぼさない。
●可逆性のある処置を施す。

まず、〈害を及ぼさない〉ことはアクセス・保存の関係性の心臓部にあたる。長期的な使用の可能性をあきらめるようでは、アクセス提供を妥当で責任ある行為とみなすことは難しい。この〈害を及ぼさない〉原則は、倫理的な側面も喚起する。何もしないことがコンテンツの損失を決定づけてしまうような事例もある一方で、コピー作成のプロセスの中でオリジナルの素材が損傷を受けたり失われたりすることもあり得る。例えば、変換に一度しか耐えられない極めて脆いフィルムがあるとすれば、変換の最中に損傷を受けて二度と使えなくなることも起こり得る。ただしコンテンツは生き残り、アクセス可能となる。
素材のコンサベーションの観点において、〈害を及ぼさない〉という第一原則は収蔵に関わることが多い。一般的に、より低温低湿の環境ほど長期保存に適しているが、写真素材にとって低温低湿のコンビネーションには限界がある。両者のバランスが悪いと、ゼラチン質の乳剤はストレスを受ける。
倫理もまた、保存に欠かせない要素の一つだ。

●処置は記録すること。
●復元と保存の違いを見極めること。
 第17章に掲げられた保存原則は有用なスナップショットだ。
●可能な限り最良のコピーとフォーマットを入手、またはキャプチャすること。
●オリジナルを安全かつ安心して長期維持できる収蔵環境に置くこと。デジタル記録は、長期維持できるデジタル専用の保管場所に保存すること。
●オリジナルのアイテムの完全性を維持すること。
●オリジナルを失ったり改変したりすることなくアイテムをコピーすること。
●害を及ぼさないこと。
●書き記すべき情報、出所、裏付けとなるドキュメンテーション、メタデータをすべて記録し、保持すること。
●コレクションとそのコンテンツへのアクセスを、未来に向けて安全かつ確かなものにすること。

■長期収蔵に関するメモ
過去10年に国際標準化機構(ISO)が議論してきた収蔵条件の標準は、短期、中期、長期をそれぞれ5~10年、10~25年、25年以上と定義している。写真の保管や映画フィルムの主要な研究所、ニューヨーク州ロチェスターのイメージ・パーマネンス・インスティチュートの研究者たちは、写真劣化の多様な要素に低温低湿条件がどう影響するかを縦横に調査してきた。フィルム・ベースも磁気ベースも含む様々な動的映像メディアの収蔵条件を概観するには、〔章末の〕追加文献を参照されたい。

■保存処置は相互に依存している
保存とアクセスが持ちつ持たれつの関係にある一方で、保存処置自体は、その他の処置やワークフローの段階に依存していることが多い。例えば、収蔵環境をビデオテープに最善の条件―室温8℃・相対湿度(RH)30%―に設定する場合、もしこのような条件から直に22℃、55%RHのオフィス環境に持ち出したら、ビデオテープは結露によって完全にだめになってしまうかもしれない。二つ目の例として、ワークフロー次第では、アクセスのために常にアイテムが出たり入ったりする。それでは低温低湿環境の恩恵も受けられない。

[3]旧式化とデジタル万能薬

動的映像の技術とIT分野の出会いが成熟することによって、より多くの動的映像がデータとして作成されるだろう。そして、より多くの現存するキャリアのコンテンツがデータフォーマットに変換されるだろう。
デジタル保存のためのファイルの標準は確立されつつあるが、動的映像のファイルは未だ標準化されていない。しかし業界には、デジタルシネマの配給用に採用されたJPEG2000のように、デフォルト標準として採用されてきたファイルがいくつかある。
標準が一旦確定し、エンドユーザーのニーズに見合うものになったら、マイグレーションのメリーゴランドは今ほど目紛しいものでなくなると考えられる。MPEG標準、MXF、AADラッパーのように、注目に値するのは、多くの標準がデータファイルの構造や圧縮の仕様にだけ関連し、ファイルのエッセンスに関連しないことだ。VERS標準は過去10年のあいだに動的映像の制作に受け入れられたラッパー方式と併存する。これはメタデータや多様なエッセンスを備えたラッパーだ。
先にも述べたように、保存の問題が生じれば、専門性を備えたフィルムアーカイブの技術と知識を参考にする必要がある。しかしながら、誰が記録の保存を担当するにしても、動的映像の保存に関わる諸問題を理解することは重要だ。

[4]収蔵庫

保存においては、個々のアイテムというより、コレクション全体に恩恵を与える行為が重視される。収蔵庫こそが適切な保存の要石だ。
収蔵のための最良の実践方法を段階的に述べると次のようになる。

●湿度と温度の制御された収蔵庫を用意することに重点を置き、低温低湿を目指す。活発な劣化が生じたら、制御された収蔵庫はその進行を抑えることはできるが、止めることはできない。この点を忘れないこと。
●収蔵環境の恩恵を最大限に生かす容器―例えば、ビネガーシンドローム等の劣化によって生じる気体が放出されるよう特別に設計された通気の良いフィルム缶―にアイテムを格納しよう。
●損傷を最小限に抑えるように、棚にアイテムを収蔵しよう。例えば、フィルム缶を平らに(水平に)重ねるなら6~8巻以下にする、一定の圧力で若干の〈余裕〉をもたせて―きつすぎず緩すぎず―フィルムを丁寧に巻く。ビデオテープは(書籍のように)立て置きに棚に収蔵し、テープはトップまたはエンドまで完全に巻き取っておこう。
●ワークフローに占める収蔵方法の影響力を理解しよう。例えば、フィルムに緩い巻きを採用する場合、その状態で移動させると〈シンチング〉―フィルムとフィルムが擦れ合って元に戻せない摩擦や傷痕が乳剤に残る―のリスクが高まる。移動するときは特別な扱いが必要だ。



[5]概要調査

保存を進めるにあたって、コレクションの状態に関する情報は不可欠だ。状態を査定するためにコレクションを概観する。一般的に、概観調査によって集める情報は、ベースの劣化(褪色、ビネガーシンドローム、缶の中のフィルムの状態―例えばフィルムはリールに巻かれているか、それともコアに巻かれているか、エンドの先はテープ留めされているかといった情報)、一缶の中のアイテム数、缶ごとのフォーマットの種類(例えば、磁気サウンドトラックがフィルムと一緒に入っている場合など)だ。コレクションをモニタし続け、ビネガーシンドロームや褪色の進行状況を調べる。モニタリングや概要調査の作業量を減らすため、サンプリング調査も検討しよう。

[6]保存用コピー

コピーの作成は、動的映像を保存する上で避けられないステップだ。可能な限りオリジナル素材は捨てずに取っておくこと。コピーの作成時、技術的または資金的な限界があれば、オリジナル素材の性質を維持できないだろう。オリジナルに立ち返ることができるかどうかが大きく影響することがある。例えば、オリジナルのUマチックからベータカムSPへのダビングは、1992年の時点では最新技術だった。しかし1996年からは、デジタル・ベータカムにオリジナルの信号を移すことによって、ベータカムSPへのアナログコピーに付き物だった損失がなくなった。オリジナルを保持することの重要性を教えてくれるもう一つの典型例は、〈不燃性〉フィルムに複製を取った後でナイトレートフィルムが大量に廃棄された件だ。不燃化に使用されたフィルムはアセテートベースで、現在ではビネガーシンドロームによって劣化しているが、オリジナルのナイトレートをきちんと収蔵したところでは、未だにナイトレートから複製を取ることができる。ナイトレートからの複製は、劣化したアセテートからの複製より結果的に優ている。
コレクションの複製やコピー作成には時間がかかる。1時間分のオリジナルの音声素材の変換には3人がかりで1時間、ビデオとなれば少なくともその2倍はかかる。さらに事務処理の作業も考慮に入れれば、業務全体にかなりの時間が必要なことは明白だ。
記録によっては、複製によって同じフォーマットで再現できる。例えば映画フィルムの場合がそうだが、たいていはコストがかかり過ぎて実現できない。ほとんどの記録の場合、保存用の複製は、その記録を新しいフォーマットに移し替える作業〔マイグレーション〕を伴う。
保存用コピー作成には主に3つの目的がある。

●画像と音声をオリジナルより安定した長期メディアに保存する。
●オリジナルに万一の損失や損傷がおこった場合の代替コピーを提供する。
●オリジナル素材をできる限り扱わずに済むように、閲覧用コピーや複製コピーを提供する。

動的映像記録のコピー作成計画には次のような種類が含まれる。

[保存用コピー]セキュリティー・コピーとしても役立つ。保存用コピーはオリジナル素材と同等に保管し、どうしても必要な場合を除いては使用しない。映画フィルムは、例えば、残存するコンポーネントが1本しかなく、記録的な価値が高いとみなされる場合など、フィルムからフィルムへの複製が必要なこともある。フィルム複製は新たなフィルムのインターメディエイトを作成し、プリントを作成することになるので、コストの高い作業になる。しかし、その素材を長期的に保存するという意味では最も確実な方法だ。複数のコンポーネントから成る単独のフィルム作品の場合、新たなフィルムのコンポーネントを作成することで、複数のコンポーネントの隔たりを埋める必要が生じることがある。フィルムをビデオフォーマットにコピーするときは、もっとも実用的な品質のコピーを作成すべきだ。
[複製またはデュープコピー]閲覧用または利用者用コピーを作成するために使用する。
[閲覧用またはアクセス用コピー]研究者が閲覧するためのもので、現在もっとも手軽なフォーマットはVHSかDVDだ。しかしながら、機材が揃っていて、フィルムプリントの本数に余裕があれば、オリジナル・フィルム自体の閲覧を望む研究者もいるだろう。
もし動的映像のコピー作成を実行する立場にあるなら、そのプロセスは注意深く検討しよう。高価なばかりか、既に述べたように、一度の処置にも持ちこたえられないオリジナルも存在する。コピーの品質が良ければ、記録の長期保存も良い。なぜなら、顧客がその素材を新たな制作に使用したいような場合、再度コピーを作成する可能性が減るからだ。また、例えば高解像度、あるいはワイドスクリーンといったような将来的な要求も考慮しよう。さらに、アーカイブズの利用者がオリジナルを目にする栄誉を授かるようなことはまずないはずだ。それだけに、オリジナルの価値はできる限り正確にコピーに再現されるべきだ。
異なるコピーがある中で、それぞれを容易に同定/識別できるようにしておくことも重要だ。コピーをシリーズに分割するのも一つの方法だ。オーストラリアの代表的な文化組織においては、コピーを見分けるための色分け方式も採用されてきた。保存用コピーが赤、デュープが緑、閲覧用コピーが青となっている。

[7]誤った扱い方による損傷

不適切な扱いや使用中に起こる損傷は、動的映像記録を危険に晒す。フィルム、磁気、光学メディアという3種類すべてが低質な、あるいは不適切な扱いによって害を被る。落下は取り返しのつかない被害になり得る。ビデオテープの場合、カセットに損害を与え、テープ自体に損傷を起こし、潜在的には再生機も傷めることになるし、テープ自体に折れ目が付くような損害も与える。映画フィルムの場合、フィルム同士が擦れると傷や引っ掻き傷になる。光学ディスクは反射面に対するいかなる傷にも弱い。傷や汚れがあると、情報が飛んだり繰り返されたりする。DVDの層間剥離は落下や物質的な衝撃を受けることによっても起こる。ビデオとフィルムはとくに適切に格納し、送付時にはできる限り動かないよう固定する必要がある。
フィルムにとってもビデオにとっても、経年劣化以外の最大の脅威は使用時に生じるリスクだ。フィルムを手作業で扱う場合も、映写機のような装置に装填する場合も、あるいは、フィルムの閲覧用機材でも、乳剤の傷や画像の損傷が起こる可能性がある。また、手垢や皮脂も磁気テープに残ると酸化物層や再生装置のヘッドを傷めてしまう。

 


(第15回につづく)

Keeping Archives, 3rd
Copyright (c) The Australian Society of Archivists, 2008.
First published by The Australian Society of Archivists.

オーストラリア・アーキビスト協会からのご配慮に厚く御礼申し上げます。

 

翻訳者プロフィール

NPO法人映画保存協会
http://www.filmpres.org/
映画保存協会(Film Preservation Society, FPS)は映画フィルムを文化財として保存する活動に取り組むNPO法人です。
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