『キーピング・アーカイブズ Keeping Archives』連載第16回

 


[2]ビデオテープ

ビデオはベース〔支持体〕、バインダー、信号層から成る。
中でも劣化の問題が深刻なのは、信号層とベースの間にあるバインダーだ。一定の条件下において、バインダー層は空気中の水分に反応する。加水分解と呼ばれるこの反応によってバインダーの分解が進み、染み出す水分でテープが再生ヘッド上に密着する。この症状はスティッキー・シェッドとして知られている。
ポリエステルのベース層は、信号を記録する磁性金属でコーティングされている。コーティングがバインダーと合体しているフォーマットや、金属粒子がベースに直接埋め込まれているフォーマットもある。ビデオが劣化するとコーティングが落ちはじめ、信号層の情報が妨げられたり、失われたりする。バインダーが劣化してコーティングが剥がれはじめる状態は、シェディングとして知られている。
ポリエステル・ベースは、不均一な巻き取り、テープについた折り目、テープの伸縮から損傷を受けることがある。磁力の強い場所に近づけると磁気信号が支障を受け、やはり損傷につながることがある。損傷や劣化はさておき、ビデオのために最も考慮すべきは、フォーマットの旧式化だ。一般的に、ビデオの進化は商品の性能向上に向けられてきた。しかしながら、金属蒸着テープなど、初期に開発されたフォーマットにはひどく不安定なものがあった。


ビデオテープの劣化
スティッキー・シェッド・シンドローム
劣化の記述
●バインダーの劣化:磁気テープは、プラスチックのベースと金属粒子が埋まっているバインダーから成る。1960年代中頃から、バインダーにポリエステル・ウレタンが広く使用されるようになった。ポリエステル・ウレタンはとりわけ加水分解に弱く、大気中の水分に反応して変化する。その結果、ベトベトになったテープが再生機にくっついてしまう。テープ自体が一塊になって「ブロック」してしまうことがある。

何をすべきか
●活発な劣化のため、その兆候が見られるテープはできるだけ早くコピーすべきだ。
●高温多湿は加水分解を促進するので、テープは低温低湿条件で収蔵すること。
●再生機にテープが詰まったら、綿棒にイソプロピルアルコールを染込ませ、すぐにテープシェッドを清掃すること。
●テープがブロックされてしまったら手の施し用がない。オーストラリア国内では、NFSAが実験的なブロック解除技術を持っているが、特別に改造した機材が必要だ。
●視聴覚の専門家自身によって、あるいは専門家の協力によってのみ可能な特殊な処方がある。専用機器によるテープのクリーニング作業や、長期間低湿度の環境に晒すことでテープを乾燥させる〈ベーキング〉もその一つだ。
磁気コーティングのシェディング
劣化の記述
●テープの磁気層のシェディング:テープの周囲やケースに残る酸化層の茶色の粉が証拠になる。Uマチック、スプロケット穴のある磁気トラック、時には1/4インチのテープにも見受けられる。アセテートベースのスプロケット穴のある磁気トラックは特に脆弱で、この症状が出ていればビネガーシンドロームも併発している。

何をすべきか
●活発な劣化なので、発見後すぐにテープのコピーを作成すべきだ。
●再生機が詰まったら、テープヘッドのクリーニング方法について専門家の指示を仰ごう。可能な限りはやく実行に移すこと。
●OH&S〔労働安全衛生規則〕に十分注意を払い、手袋や防御眼鏡を着用しよう。
●できる限りはやくコピーすること。
劣悪な再生信号
劣化の記述
●ビデオ信号の品質が劣悪で、画像は不鮮明で、色は実物とかけ離れている。
●スクリーン上で画像が揺れる。

何をすべきか
●テープガイド/テープヘッドを清掃する。
●例えばSVHSをVHS用の機材で再生する場合など、フォーマットの互換性を確認しよう。
●専門家の指示を仰ごう。機材の再生テンションの調整、時間ベースの補正器その他ビデオプロセッサで問題を解決できるかもしれない。
消磁
劣化の記述
●テープ信号の抹消。

何をすべきか
●滅多に起こることではない。エレベーターのモーター変圧器のような極めて強い磁力が信号に支障を及ぼす場合に限られる。しかし、再生機の録音ボタンを誤って押して信号を消してしまうこともあるため、閲覧用機材の録音機能を無効にすることが推奨される。
エッジの損傷とテープの歪曲
劣化の記述
●テープの歪曲や伸縮。

何をすべきか
●テープはハブ付のケースに入れて、棚には縦置きで収蔵すること。
●テープの巻きに歪みがないこと(カセットからテープが飛び出していないか)を確かめよう。
●テープに直に触れないようにしよう。
●テープをトップまたはエンド(テープの開始点または終了点)まで巻き戻そう。
【表18.4:ビデオテープの劣化】

 


[3]光学ディスク

物理的な意味での光学ディスクとは、一連の小さな凹みとして情報を内在する円形のプラスチック・ベースを、薄い金属反射層―通常はアルミニウム―で覆ったものだ。光学ディスクの保存の問題には、この反射金属の表層の傷・汚れ・油分に起因するものと、反射金属をコーティングするプラスチックの剥離に起因するものがある。光学ディスクに適しているのは、気温18~20℃/相対湿度45~50%の収蔵環境だ。
確かに、業界はDVDに30~50年の寿命を期待して標準を定め、製造しようとしている。しかしアーカイバル・メディアとしてのDVDの位置付けには疑問が残る。

光学ディスクの劣化
CDやDVDの劣化
劣化の記述
●金属層の酸化:光学ディスクはプラスチック層で反射金属を挟んでいる。金属層が酸化すれば再生能力に悪影響が及ぶ。プラスチック層が裂けたり、穴が開いたりすると酸化が起こることがある。金属層は表層ラベルのすぐ下にあるので、金属層の保護のため、先端の柔らかいペンとプラスチックに影響しないインクの使用が推奨される。
●ベースの傷と汚れ:光学ディスクは一定のエラー修正能力を持つので、情報の喪失もある程度は補うことができる。ただし、目で見てわかるほどの傷や汚れになると、そうはいかない。

何をすべきか
●亀裂によって金属層が晒される可能性を避けるため、低温低湿の環境に収蔵しよう。
●ラベル書きには、先端の柔らかい専用のペンと非透過インク以外使用しないこと。
●直射日光は避けよう。亀裂の原因になったり、一度しか記録できないメディアの色素層に影響したりする。
●ベースの傷や汚れを防ごう。
【表18.5:光学ディスクの劣化】

 

4. 動的映像へのアクセス


動的映像へのアクセス提供とは、ほとんどのアーカイバル・メディアと同様に、2つの基本的なレベルのサービス提供を意味する。1つに、研究者が資料を試聴できるようにすること、2つに、映画・ビデオ・放送番組用に選ばれた資料を顧客が使用できるようにすることだ。
閲覧室で容易に利用できるVHSテープやDVDは、動的映像記録へのアクセスを可能にするには有用なフォーマットだ。動的映像へのアクセスがインターネットを介したものに移りつつあることも認識しよう。また、研究者が動的映像をストック・フッテージとして映画やテレビ番組の制作に使いたいとなると、質の高いコピーが求められるのは明らかで、アクセス用コピーでは相応の品質が得られないだろう。顧客の要望に見合う品質のコピーが用意できているのが理想だ。そうすれば保存用の素材、あるいはオリジナルの素材にアクセスする必要がなくなるからだ。
アーキビストは動的映像に関わる著作権法〔※オーストラリアの場合は〈Copyright Act 1968〉〕に親しまねばならない。知的財産は著作権者の死後70年維持される国が多い。動的映像の著作物の場合は最初に放送されてから70年、あるいは、制作された年から70年だ。一つの作品に複数の著作権者がいる可能性も忘れないようにしよう。例えば、作品全体の著作権とは別に、脚本や音楽の著作権が存在する場合もある。さらに、登場する人物や場所の画像を使用するために、場合によっては新たな契約、少なくとも許可取りの必要が生じることがある。出演者の権利は契約書でカバーされることが多い。本章の前半で文化的な配慮について述べたが、その場合は著作権の中でもとくに人格権の要素が重要になる。オリジナル作品の創作者は、その作品がいかに利用されるかに関して、法的人格権を将来に渡って維持できる。著作権については第11章〔アクセス&レファレンス・サービス〕で詳しく述べている。

5. まとめ


本章がアーキビストに提供するのは、フィルムやビデオといったフォーマットを取得・記述・保存し、アクセスを可能にするための技術的かつ実践的なツールだ。動的映像技術の使用頻度は、業務遂行の上でも、日々のコミュニケーションにおいても高まっている。それに連れて、動的映像はあらゆる種類のアーカイブズのコレクションの中に入り込みつつある。本章は、アーキビストや文化施設の実務者が、技術的な標準、制作の筋道、劣化の仕組み、フォーマットの旧式化、映画用語やビデオ用語に馴染んでくれることを目指している。こうした課題を理解すれば、視聴覚記録の取得、知的コントロール、保存に自信を持って取り組むことができる。視聴覚メディアの特徴を知っていれば、保存やアクセスのための戦略を容易に立てられる。その他の視聴覚メディアと同じように、ビデオテープは物理的、化学的ダメージに対して脆弱で、フォーマットの旧式化にも陥りやすい。デジタル・フォーマットやファイル標準への理解は、情報に基づく保存、知的コントロール、マイグレーションを実現する上でも欠かせない。

■参考文献リスト(◎印は映画保存協会に所蔵あり)
・Case, Dominic 2001, Film Technology in Post Production, 2nd end, Focal Press, Oxford.
・Charbonneau, Normand, ‘The Selection of Photographs’, Archivaria, No. 59, Spring 2005, Ottawa : Association of Canadian Archivists.
◎ Enticknap, Leo 2005. Moving Image Technology: From Zoetrope to Digital, Wallflower Press, London, p 90 description of introduction of Kodachrome, p 92 description of introduction of Eastman Color 1950.
◎ Eastman Kodak Co. 1992, The Book of Film Care, Publication H-23, Cat 121-1317.
◎ Nissen D, Larsen LR, Christensen, TC &Jesper JS (eds.) 2002, Preserve Then Show, Danish Film Institute, Denmark.
・Ohanian, Thomas A 1998, Digital Nonlinear Editing : Editing Film and Video on the Desktop, 2nd edn, Focal Press, Boston.
◎ Read, Paul & Meyer, Mark-Paul (eds) 2000, Restoration of Motion Picture Film, Butterworth-Heinemann.
◎ Reilly, James M 1993, The IPI Storage Guide for Acetate Film, Image Permanence Institute, Rochester Institute of Technology.
◎ Slide, Anthony c. 2000, Nitrate Won’t Wait : A History of Film Preservation in the United States, McFarland.
・Van Bogart, JWC 1995, ‘Magnetic Tape Storage and Handling ― A Guide for Libraries & Archives’, The Commission on Preservation and Access and the National Media Laboratory, Washington.
・Wheeler, Jim 2002, ‘Videotape Preservation Handbook’ in ‘Traditional Audiovisual Preservation’ in ‘Resources’, Media Matters, New York (PDF)

■参考ウェブサイト
【基礎テキスト1】家庭でもできるフィルム保存の手引き
http://www.filmpres.org/archives/130
【基礎テキスト2】フィルム保存入門:公文書館・図書館・博物館のための基本原則. 全米映画保存基金 NFPF (2004).
http://www.filmpres.org/archives/458
Library of Congress, Digital Preservation, Digital Formats Sustainability 2007, ‘Format Descriptions’, Sustainability of Digital Formats Planning for Library of Congress Collections(米国議会図書館)
http://www.digitalpreservation.gov/formats/intro/intro.shtml
National Archives of Australia n.d., AGLS Metadata Element Set (AS 5044), Reference Description and User Guide(オーストラリア国立公文書館)
http://naa.gov.au/records-management/publications/index.aspx#agls-metadata-standard
国際フィルムアーキビスト協会 AMIA
http://www.fiafnet.org/
国際音声・視聴覚アーカイブ協会 IASA
http://www.iasa-web.org/
国際フィルムアーカイブ連盟 FIAF
http://www.fiafnet.org/
Prestospace: Preservation Towards Storage and Access, Standardised Practices for Audiovisual Contents in Europe
http://www.prestospace.org/
TAPE Training for Audiovisual Preservation in Europe
http://www.tape-online.net/
Media Matters
http://www.media-matters.net/resources.html
Conservation On Line – Motion Picture Film Preservation, contributing editor Hannah Frost
http://palimpsest.stanford.edu/bytopic/motion-pictures/#format
Nano Lab, Australia’s small gauge film specialists (super 8, standard 8, 16mm)
http://www.nanolab.com.au/technical_stuff.htm
Digital Content Producer.com
http://digitalcontentproducer.com/di/depth/video_di_down/
Managing the Moving Image – From an Engineering Point of View – Part 1 (SMPTE Journal)
http://journal.smpte.org/content/109/1/40.abstract

 


(終)

Keeping Archives, 3rd
Copyright (c) The Australian Society of Archivists, 2008.
First published by The Australian Society of Archivists.

オーストラリア・アーキビスト協会からのご配慮に厚く御礼申し上げます。

 

翻訳者プロフィール

NPO法人映画保存協会
http://www.filmpres.org/
映画保存協会(Film Preservation Society, FPS)は映画フィルムを文化財として保存する活動に取り組むNPO法人です。
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