『キーピング・アーカイブズ Keeping Archives』連載第17回

 

第16章|図面、写真、モノ資料

本章の概要

多くのアーカイブズでは文字記録に加え、写真や地図、図面などを所蔵している。小規模アーカイブズは特に、親機関にとって事実上のミュージアム(博物館)となって、コレクションの中にモノ資料を多く含む。本書で概説されるアーカイブズにおける原則を、こうした「他の」記録に適用することはなかなか難しい。
本章は、地図、図面、写真やモノ資料が、別々の形式ごとのグループではなく、アーカイブズのコレクション全体の中で重要な部分として管理される確実な方法を示そうとするものである。こうした異なる形式の保護、保存を確実に行うための適切な保管方法に関する助言をも含む。

 

1. はじめに

本書のいたるところで、とりわけ出所原則のようにアーカイブズにおける実務を支える原則と、あなたが管理している記録に関するコンテクスト情報を維持する必要性とが説かれている。さらにはアーカイブズの整理と記述、保存と保管とが扱われており、主として紙媒体とそれらと対になるデジタルによるものとを念頭においている。モノ資料とは、コレクションにおける紙媒体ではない資料であり、これまで伝統的にミュージアム(博物館)資料と見なされ、そうした資料はアーカイブズ資料とは別になって維持管理されている。
国立や州立のアーカイブズ、そして記録当局といった規模の大きなアーカイブズ機関はモノ資料をコレクションの対象外とすることが多く、収集型アーカイブズのあるものは、理にかなったいくつもの理由により、一般的に「モノ資料」をコレクションから除外するという収集あるいは受入方針をもつ。オーストラリア国立フィルム&サウンドアーカイブズ(NFSA)のように形式だけに焦点をあてるアーカイブズもあれば、特定のコレクション、例えば職業写真家の写真アーカイブズを収蔵するために存在しているものもある。
大規模アーカイブズや写真コレクションの管理を専門とするものは、この章で取り扱われることの範囲外である。写真の歴史や写真技法(プロセス)の革新、写真メディアの違いといった専門知識は、ここには含まれない。こうした興味深い分野の調査をどこから始めるかについては、参考図書をあたってほしい。また布、金属、厚紙や紙の成分の詳細なども同様に、本章の対象とするところではない。布地、地図、図面やモノ資料の取り扱いや保管方法については、第4章〈保存〉で触れられている。
この章では、小規模あるいは機関内アーカイブズにある紙ではない資料を、いかに管理するかに焦点をあてる。アーカイブズにあるモノ資料は様々な形式によるが、それらがアーカイブズのコレクション全体に対して大半を占めることは通常ない。しかしながら、モノ資料がもつ情報、保存する出来事、あるいはある組織の歴史のとある側面を伝える「物語」ゆえに、こうしたモノ資料の意義は深い。したがってアーカイブズ機関において紙媒体の記録に向けられている配慮と首尾一貫して、モノ資料も管理される必要がある。本章では、時、場所、予算という限られた資源の中で、いかに成し遂げるかといういくつかのアイデアを提唱する。

 

2. なぜモノ資料がアーカイブズの一部であるのか?

布地、家具、盾、バナーといったモノ資料は、「記録」というありきたりの理解を逸脱するものであるが、機関内、あるいは収集型アーカイブズで働く者は、こうした資料が組織や機関における「記録」全体において本質な部分を構成していることを知っている。さらには、小規模なアーカイブズはミュージアムのような要素をもつことが多く、それはアーカイブズにおけるアウトリーチや広報機能を助け、強める。
小規模もしくは機関内アーカイブズの大半は、状況に応じ、アーカイブズとミュージアムの双方として存在し、組織やそこに関わる人物となんらかの関係がある多様な資料の実質的な倉庫かつ管理人となる。下記のような資料が考えられる(以下に限定されるのではない)。

●地図、図面
●布地:制服、祭礼服、バナー、旗など
●モノ資料:トロフィー、盾、スポーツ用品、古いテクノロジー製品
●写真

[1]異なる形式には、異なった保管の必要性がある

異なるメディアや形式は、異なる保管条件を必要とする。そのため、例え原秩序尊重の原則に反することにもなろうとも、雑多なコレクションの資料すべてを一緒に維持することはできず、賢明ではないだろう。秩序とコンテクストは、記録の知的管理によって維持されるだろう。あるコレクションにおける資料の出所やコンテクストを詳細に記録することは、それらを物理的にともに管理することよりも、コレクション全体にとってはるかに有益となるだろう。このことは、本章で扱われる異なる形式ごとに詳細を述べる。

 

■保管のジレンマ:一例
多様な形式を含む寄贈を受けているとしよう。例えば、日記、議事録、いくつかの写真、開会の辞を録音したオーディオテープ、ウール製のブレザー、フェルト製のスポーツペナント、カンカン帽、銀製の小さな記念ナプキンリングなどである。それらをどう対処しようか。
一括寄贈は、個別の「コレクション」として文書で証明されなければならず、寄贈者の名前と連絡先の詳細(後日照会するため、礼状を送るため)を細かに留めておくこと。次に示す問い以上のことに答えられるように、資料に関して特別なことは何でも詳細に記録すること。

それらすべては同一人物のものであるのか。何のためのペナントか。テープにある開会式の詳細─寄贈者は公的な立場でそこにいたのか。誰が話しているのか識別されるか。写真─その被写体は見分けられるか。写真に日付はあるか。寄贈者は議事録に議決が記載される委員会の一員であったのか。

資料それぞれを同一の寄贈の一部であることを証明しなさい。このことは、個々の資料に小さなアーカイブズ仕様のミュージアム用のラベルを取り付けたり、軟らかな鉛筆で記したり(写真、日記、議事録の場合)して行う。紙を基材とする資料は、適当なアーカイブズ仕様の箱に入れて保管する。もしかしたら議事録はすでにある一連のもの(シリーズ)の一部となるものだろうか。そうした場合、そのシリーズのための知的な管理システムにその存在をも記し、特定の寄贈あるいは受入番号をともに書き留めておくこと。オーディオテープは同じようなメディアとともに別の箱で保管するべきである(恐らく保管施設の別の場所)。帽子、ペナントやブレザーはほこりを払い、クリーニング屋に出し、酸の入っていない薄様紙で包み、望むらくはアーカイブズ仕様の衣装箱に平らに保管する。その時ブレザーを何度も畳むことのないよう、箱は充分に大きいこと。コレクションは物理的にはともに存在しないかもしれないが、本質的に異なる資料を知的に管理することによって、必要に応じ、コレクションをそっくりそのまま再構成させることが可能になる。

 


 

3. 保存修復と保存環境整備─一般注意事項

多くの資料の化学構造は不安定であり、時とともに変化する。モノの多くはそれらが作られた瞬間から劣化を始め、そのことはいかなるアーカイブズにおけるコレクションを形成する資料の大半に当てはまる。劣化の進度と程度は、資料が現在置かれている、あるいはこれまで置かれてきた保管環境に左右される。第4章〈保存〉は保存修復と保存環境整備の詳細を述べているが、ここで改めてコレクションの中にあるモノ資料を管理する時に気をつけるべき要因を列挙しよう。

●温度、相対湿度
●有害生物:虫、鳥、齧歯(げっし)類
●汚染物質:ほこり、垢
●カビ
●人からの影響

コレクションに含まれるモノ資料のそれぞれの種類に応じた理想的、あるいは最高水準にある環境を作ることはできないかもしれない。しかしながら清潔な保管庫で温度が安定し、相対湿度が低い状態を維持することを目指すべきである。推奨される範囲よりも上下していようとも、温湿度が安定していることと比較すると、温湿度の変動はなおのこと害を及ぼす。
表16.1はコレクションに悪影響を与えかねない脅威となるものの種類の概要と、こうした脅威を除去、あるいは制限するための予防的措置を示す。

脅威 予防的措置
物理的な力 ●破損
●衝撃
●振動
●重量
●コレクションにある資料のアクセスや利用をできる限り制限する
●資料の適切な梱包、保管を確実に行う
●箱や棚に詰め込みすぎない
盗難あるいは破壊 ●盗難
●損傷
●落書き
●破れ
●コレクションにある資料のアクセスや利用をできる限り制限する
●保管と展示場所での安全対策
●展示ケースの施錠を確実に行う
●調査あるいは「共用」部分を点検する
災害 ●火災
●洪水
●リスク調査に着手する
●防災計画の作成
●防災計画で挙げられた危険を軽減する手段の導入
●煙探知器や消火設備の設置
●洪水や水漏れから守るため、保管棚を高くし、カバーをかける
本質的な欠陥 モノが本質的に弱い素材で出来ている、あるいは構造自体を生来的に弱くする方法で出来ている場合には、保管上に問題がなくても損傷を被りやすい
使用 これまでの利用や取り扱われ方のために、モノは弱められたり、弱くなったりしている ●手袋をするなど取り扱いに注意する
●展示や資料を移動する時には、本の枕(ブックピロー)や厚紙のような支えを使用する
環境 モノの劣化を起こす環境の要因
●光
●相対湿度(RH)
●温度(特に変動)
●汚染物質(粒子と気体)
●全ての窓に覆いを付ける
●照明設備にUVフィルターを付ける
●温湿度の変動を安定させるための環境制御
例 除湿機、扇風機、空調
生物学的な攻撃 ●昆虫
●害獣
●よく整理整頓する
保管および展示場所をできるかぎり清潔に保つ
●定期的に専門家による有害生物防除を行う
●劣化の兆候を測定するためコレクションを定期的に検査する
誤った保管あるいは展示 ●低品質の用具
●不適切なやり方
●不十分な支え
●不十分な保護
●全ての資料が適切な用具と条件のもとで保管される
●全ての資料が保管、展示される時には、十分に支えられる
●必要であれば用具や支えの有用性と変化を監視する
●資料の展示期間を制限する
●展示と保管する資料を交替させる
【表16.1:モノを管理する時に考慮すべき脅威と予防的措置の概要】

 

表16.2は、様々なメディアにおける劣化兆候のあらましである。定期検査を計画することは、被害を小さくする助けとなる。というのも発見が早いほど、さらなる被害をくい留め、すでに損なわれた資料を修復するといった処置を早くに講じることができる。劣化の兆候がはっきりしないのであれば、修復家に相談して専門的な助言を受けること。劣化の兆候は、嗅いと見た目に明らかであることを覚えておくこと。
コレクションの中にあるモノ資料をどこかに収蔵する前に写真を撮っておくことは、所蔵品の手早い参考資料(全体の管理維持システムの一部として)となるばかりか、ある程度時間が経過した時点で劣化があればそれを測る基準ともなる。

 

損傷の要因 劣化の兆候
黄変、変色、プラスチックのゆがみ、金属の腐食、脆弱化
カビ 目に見える胞子、白カビ、しみ、色のついた粒状堆積物(フォクシング)
汚染物質 表面に垢・ごみ・ほこりの増殖、表面の色の変化、金属の腐食
腐食 表面の肌合いや色の変化、結晶質の堆積
過度の取り扱い 指の跡、痕跡、手の脂、よごれ
誤った洗浄方法 表面撹拌、洗浄剤の堆積、装飾の除去、銀(あるいは他の)仕上げの除去
本質的な欠陥 経年による自然劣化、明白な外部要因が見当たらない
使用 すりむけ、磨滅のあと、焼け、褪色、亀裂、しわ、折り
紫外線 染料・塗料・インクの褪色、黄変、むらのある変色、もろさ、弱いまたはもろい繊維、木材の変色
湿気 しめっぽさ、触ると冷たい、水の存在、カビの成長、水による染色、色素の変化
温度と相対湿度(RH)の変化 亀裂、裂け、すりきず、表面の変化あるいは劣化
孔、繭、生きている虫あるいは死骸、糞、開けた孔の破片
誤った保管材料 変色、壊れ、擦過傷(保管材料と接触した部分)
【表16.2:コレクションにおける劣化の見極め】

 


(第18回につづく)

Keeping Archives, 3rd
Copyright (c) The Australian Society of Archivists, 2008.
First published by The Australian Society of Archivists.

オーストラリア・アーキビスト協会からのご配慮に厚く御礼申し上げます。

 

翻訳者プロフィール

渡邉美喜 東京国立近代美術館企画課研究補佐員

翻訳に関するお問合せはNPO法人映画保存協会までお願いいたします。
NPO法人映画保存協会
http://www.filmpres.org/
info[at]filmpres.org  *[at]の部分を「半角アットマーク」に変更してください。