70年前の記録から知る「東京」―『決定版 東京空襲写真集』刊行記念特集

 

戦争を体験していない日本人、近現代史をほとんど知らない日本人が増えています。
それでも、1945年8月15日が何の日か、多くの人が知っていると思います。8月6日も、8月9日もよく知られた日でしょう。
では、3月10日はどうでしょうか。あるいは、5月25日は。
その日、東京は大空襲下にあり、軍事施設だけではなく、住宅地や商業地も激しい爆撃にさらされ、多数の市民が犠牲になりました。
もちろん、被害の大きさで有名なこの2日だけでなく、東京区部は60回以上の空襲を受けており、日本全国の都市も同じように焼き払われました。
携帯電話もデジカメもなく、写真機も高価だった当時、この惨状を撮影できた人は多くありません。軍や警視庁に所属していた一部の人だけが、撮影をすることがでたのです。この写真集は、それらの貴重な写真を、可能な限り集めたものです。
私たちのよく知っているこの東京は、ほんの70年前には見渡す限りの焼け野原でした。
そして私たちはつい最近、見慣れた街が一瞬で瓦礫の山となりうる現実を知ったばかりです。
人災と天災、炎と水という違いはありますが、私たちの故郷が破壊され、大切な人が失われるという意味では同じことといえるでしょう。
ここに収められた写真はすべてモノクロですが、4年前の記憶をもとに想像力を補えば、70年前の白黒写真は、近い将来に私たち自身に起こりうる可能性として、色や音をともなって息づいてきます。
ここには主義も主張もありません。ただ、誰の身にも起こるべきではない、恐ろしく悲しい景色があります。


『決定版 東京空襲写真集』関連企画が開催されます

以下は、『決定版 東京空襲写真集』の編者である東京大空襲・戦災資料センターからの「東京大空襲写真展 東方社撮影」のご案内です。
ぜひ足をお運びください。

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東京大空襲・戦災資料センターでは、今年1月に刊行致しました『決定版 東京空襲写真集』(東京大空襲・戦災資料センター編 勉誠出版)の関連企画として、下記の通り「東京大空襲写真展 東方社撮影」を開催致します。
本写真展では、東京大空襲・戦災資料センター所蔵「青山光衛氏旧蔵東方社・文化社関係写真コレクション」及び東方社カメラマンのご遺族所有の写真の中から、銀座空襲を中心に東京空襲の被害写真43点を展示させていただきます。
戦後70年の節目にあたる今年は、戦後日本が歩んできた道を大きく変える年にもなってしまいました。しかし、だからこそ戦争の悲惨さを伝える活動は、今後さらに重要なものとなってくるものと思います。本写真展も、より多くの方に戦争の悲惨さ、空襲の非人道性を知っていただける機会になることを願って開催するものでございます。
会場の写真弘社ギャラリー・アートグラフ(http://www.shashinkosha.co.jp/)は、地下鉄銀座駅のすぐ近くですので、お近くにお出かけの折にでもお立ち寄りいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願い致します。


 


★「東京大空襲写真展 東方社撮影」
会期:2015年11月20日(金)~26日(木)*22日(日)休み
時間:10:00~18:00(21日(土)、23日(祝・月)、26日(木)は17:00まで)
会場:写真弘社 ギャラリー・アートグラフ(銀座)
   (東京都中央区銀座2-9-14 銀座ビル1階、TEL:03-3538-6630)
主催:公益財団法人政治経済研究所付属東京大空襲・戦災資料センター
料金:入場無料

 

編者のことば

この写真集には、警視庁カメラマンの石川光陽氏と、陸軍のもとで記録写真を撮影していた東方社や日本写真公社のカメラマンが撮影した東京空襲被害写真を、初公開のものを含めて、同じような場面などを除いてほぼ網羅的に、約1400点を収録しています。戦時中公然と空襲被害写真を撮影できたのは警察や軍関係者のみですので、東京空襲被害写真を集大成する写真集が初めて刊行されることになります。
 東京大空襲・戦災資料センターでは、東方社や日本写真公社撮影の東京空襲被害をはじめとする記録写真についての共同研究に取り組んできましたが、写真を所蔵されているカメラマンのご遺族のご協力により、この写真集を編集することができました。
収録した空襲被害写真は、初空襲、銀座空襲、下町大空襲、山の手大空襲、八王子空襲など、主な東京空襲をすべて含んでいます。写真からは、アメリカ軍の東京空襲が軍需工場などの軍事施設のみでなく、教育機関、宗教施設、病院、繁華街などの非軍事施設をも破壊し、住宅地を焼き払い、女性や赤ちゃんなどの民間人を殺戮するという非人道的なものであったことを読みとることができます。

山辺昌彦(東京大空襲・戦災資料センター学芸員)


戦争が永遠になきように

海老名香葉子(エッセイスト・作家)

1945年3月10日未明に燠きた東京大空襲の写真をみた。母親らしき黒こげの遺体の先きに赤ちやん。これも黒こげ。私は思わずその写真を伏せ体がブルブル震えたと同時に声をあげて泣いていた。
小学5年生のとき疎開先で報らされた現地の状況だった。その後20年程経ち当時の様子が新聞や雑誌でも知らされた。火勢で吹きだまった焼死体の山、目を覆う、私の父母肉親6人もこの中にいるのだ。胸に焼き付けておかなくてはならない事実、戦争の無惨。娘が3歳のとき写真をみて泣いていた私の背をなでてくれながら、「ママ、かわいちょう」と一緒に泣いてくれた。骨の行方もわからぬまま今日の平和の中に生きる私。死した人を思うと幸せが哀しくなる。
戦争はやがて地獄と化す。人の魂さえ奪ってしまう恐しいことなのだ。どうか世界中の人達がこの頁をめくって、戦争が永遠になきよう祈ってほしい。

 

負の遺産となる「東京空襲写真集」

新藤健一(フォトジャーナリスト)

集団的自衛権の行使が声高に叫ばれる昨今、71歳になった私ですが子どもの時、防空壕に入り、怖くなった記憶がいまも脳裏に焼き付いています。東京・下町に育った私は一面の焼野原が遊び場した。
近所には破裂した水道管で水浴びする掘立小屋の住民、すすけたバスを改造した家の大家族、大きな土管で寝起きしている人もいました。幸い木造一戸建てにいた私の毎日の仕事はウチワ片手にコンロの火起こしから始まりました。毎日が飢えていた欠食児童の楽しみは川での魚とりと田んぼや池にいるザリガニやカエルとりでした。
戦後70年になります。ニュース・カメラマンとしておよそ半世紀、まるで他人事のように国内外の紛争地や戦場でシャッターを切ってきましたが、その原点は東京大空襲です。カメラマンとして悲惨な現場を目撃するたびに、己の原体験を思い出し胸につかえるモノがありました。
ジェノサイドと言える米軍の無差別攻撃は私たち下町の住民が犠牲となりました。戦後、国鉄(現JR)亀戸駅や錦糸町駅のガード下には裸足で物乞いする浮浪児や白衣の傷痍軍人が土下座している姿がありました。亀戸には日立製作所と精工舎が、錦糸町には精工舎がありました。B29は、この軍需物資を作る工場や人びとの居住地に猛爆を加えたのです。
しかし、その惨状を伝える写真は、限られた数しか残っていませんでした。今回、新たに見つかった東方社の写真を始め、可能な限り精査収集された資料を基にまとめられた「東京空襲写真集」は20世紀の「負の遺産」を後世に引き継ぐ重要な歴史の証人となるでしょう。

 

「死の現場」に対する想像力

吉田裕(一橋大学大学院社会学研究科教授)

対アフガン、対イラク戦争に派遣された自衛隊員の中から40名の自殺者が出ているという。
当然、その背後には、戦争神経症を発症したより多くの隊員の存在を推定することができる。戦争は生き残った一人一人の人間の心身にも大きな傷跡を残し、その人の人生を大きく変えてしまう。その戦争に対する想像力が、この社会の中で少しずつ衰弱しているように思えてならない。戦争体験世代が少数派となる一方で、偏狭なナショナリズムが台頭し、戦争の悲惨な現実から目を背けさせようとしている。
他方で、新自由主義的な改革のもとで、社会全体が疲弊したことによって、人々は自分自身の小さな世界の中で自足し、他者に対する関心を失いつつあるようにもみえる。
そんな時であるだけに、私たちは、「死の現場」に対する想像力を、意識的に培ってゆく必要があるだろう。都市に対する無差別爆撃を記録したこの貴重な写真集が、そのことの一助となることを期待したい。

 

本書で掲載している写真

決定版 東京空襲写真集』で紹介している写真をいくつかご紹介します。

・日本橋区通2丁目で都電から待避する乗客たち。1944年12月、東方社・林重男撮影。

 


・数寄屋橋から銀座方面を見る。ポンプ車が走り、ホースをつないで消火活動が始まる。1945年1月27日、日本写真公社国防写真隊撮影。

 


・都電不通により神田区小川町を歩く人。1945年2月26日、石川光陽撮影。

 


・駒込千駄木町での遺体搬送。1945年3月4日、石川光陽撮影。

 


・東方社の屋上から見た夜間空襲。1945年3月、東方社・菊池俊吉撮影。

 


・焼けた浅草仲見世を歩く人たち。1945年3月20日、東方社・菊池俊吉撮影。

 


・麹町区九段の焼跡での告別式。1945年5月26日、東方社・光墨弘撮影。

 


・八王子市内の焼野原。1945年8月4日、石川光陽撮影。

 


このほか約1400枚の写真を掲載しています。

 

東京堂書店・神田神保町店にて、パネル展示を開催中!

2月8日(日)より、東京堂書店・神田神保町店様にて、『決定版 東京空襲写真集』のなかから印象的な写真を厳選したパネル展示を開催していただいています。
戦後70年を迎えた今年、貴重な写真の数々を大型パネルでご覧ください。

詳細はこちら⇒東京堂書店・神田神保町店にて、『決定版 東京空襲写真集』のパネル展示を開催中!




詳細はこちらから

決定版 東京空襲写真集

決定版 東京空襲写真集 アメリカ軍の無差別爆撃による被害記録

早乙女勝元 監修/東京大空襲・戦災資料センター 編

定価12,960円(本体12,000円)

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