『津田左右吉、 大日本帝国との対決』刊行記念特集

 

津田左右吉という人物―。
日本近代屈指の歴史家の一人に数えられるが、多くの人は教科書で学んだ「津田裁判」の印象が強いだろう。つまりは「戦時下の言論弾圧の犠牲者」という目線で見ている向きが強い。
では裁判の幕内にある彼の歴史観・思想はと言えば、事件の社会的インパクトに隠れて置き去りにされている感がある。さらに戦後の言論界においては「書斎派」「象牙の塔の中の歴史家」というレッテルが貼られてきた。
この評伝は、筆者・大井健輔氏が津田左右吉に貼り付けられたレッテルを剥がし、現代日本に津田が投げかけ、今に至るまで等閑視された問題意識を掬い取る格闘の書である。
本書で、津田は格闘している。「裁判」において裁判官らに説諭した記紀神話。日本古来の天皇像と、帝国が作り出した「軍人天皇」像との対決。自らの思想を導き出すまでの、若き日の苦悩、流転。戦後日本への忸怩たる思い。
津田、そして大井氏の格闘の跡は、本書に全て詰め込まれている。読者にはじっくりと味わっていただき、戦後70年の今を考える一書としていただきたい。


筆者・大井健輔氏へのインタビュー

―「対決」とは何か。
このタイトル。ここにまず研究者は違和感を持つと思います。「大日本帝国との対決」というのは、津田が裁判で大日本帝国と対決した、ということで本書のタイトルに持ってきたのですが、実際は、津田は「私は裁判で戦っていない」という発言を残しています。多くの研究者はその発言があるので、このタイトルには違和感を持つ。ただ、この対決というのは政治的な意味ではありません。ただ大日本帝国打倒というレベルで言っているのではない。対決って、自分との対決もあれば、自分対日本、自分対世界もある。明治時代に若い彼は悶々として自分と対決していた。そういうあり方も意味している。政治的な意味で倒そう、ということではなく、日本そのもののあり方への懐疑ですね。そういう意図で読んでいただければ幸いです。

―今、なぜ津田左右吉か。
今まで、津田左右吉という人は評価が難しい人だと言われてきました。戦後民主主義に対する違和感を表明して、そのことで、戦後言論界では評価が難しい対象となったのです。戦後の言論の流れに乗らなかったですし、戦前の活動を見ても、時代の大勢には乗っていない。つまり、戦前、戦後の二つの流れにともに違和感を持っている。そういう人はそうそういませんね。そこが一番魅力を感じるわけです。彼は直裁的に、ばっさりと斬るようなスタイルで発言を続けていく。そうした姿勢はもっと高く評価されなければならない人だと、ずっと思ってきました。
彼の研究は天皇の問題に直結する。天皇については今に至るまで問われ続けているわけで、そこで津田が大日本帝国下の天皇のあり方についてどういうことを言ってきたかを知ることは、今日において有意義なことだと思っています。


―この書で何を問うのか。
「はじめに」で、「停滞する言論界」ということを書いています。言論の世界ではずっと日本近代を否定する流れが来ていたのですが、最近はそれを肯定する流れが出てきて、扇情的な本が売れている、という印象です。私は、歴史の評価というのは本来難しいもので、基本的なところに立ち返らないといけないと思っている。複雑なことを複雑なこととして認めて、自分の中で整理していくのが本来の知的作業だと思います。この本も、決して「こうだ」という決めつけはない。単に大日本帝国が◯か×か、というような次元で書いているつもりはありません。そうした時代を読み解くことで、津田の現代へのメッセージを掬い取りたいと思ったのです。
津田左右吉自身も、言論ははっきりしているが、そこまで思想が分かりやすい人ではないかもしれない。それでも、日本のことを深く知った上で、日本について言葉を投げかけているのが津田という人でありまして、いささか硬直している言論界の中で、理性的な彼の言論を学んでみる。読者の方が何かしらの課題をそこから見つけていただく、ということもあるのではないかと思っています。


 

 



◎津田左右吉(つだ・そうきち)
日本史学者。1873(明治6)年、岐阜県生まれ。1891年、東京専門学校を卒業後、中学校教師、南満州鉄道株式会社(東京支社)歴史調査室勤務を経て、早稲田大学教授(1920~1940)。1940年、出版法違反によって起訴される(いわゆる「津田裁判」)。1944年に東京控訴院にて「時効完成」により免訴。1949年、文化勲章受章。著書に『日本古典の研究』、『文学に現はれたる国民思想の研究』など。1961年(昭和36年)、東京都武蔵野市にて没。

◎大井健輔(おおい・けんすけ)
本名 児玉友春。昭和56年(1981)2月28日生まれ。千葉県柏市出身。立教大学文学部史学科卒。同大文学研究科史学専攻修士課程修了。同大同博士課程中退。研究分野は日本思想史。
『新日本学』(拓殖大学日本文化研究所)『昭和史講座』(保阪正康事務所)『北の発言』(西部邁事務所)『史学雑誌』(東京大学文学部)『皇学館論叢』(皇学館大学人文学会)『立教日本史論集』(立教大学日本史研究会)などに論文掲載。

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他にもこんな書籍が出ています。

  • 『古事記及び日本書紀の研究』津田左右吉(著)、毎日ワンズ、2012年
  • 『津田左右吉歴史論集』今井修(編)、岩波書店、2006年