全世界の神話を網羅する決定版の誕生―『世界神話伝説大事典』刊行記念特集

 

人間は、自然現象や災害、人間の生死や老化など、身の回りのあらゆることの中に、神々を見出し、物語を作り出してきた。それは「神話」となり、口承・書承など様々な形をとり現代まで連綿と受け継がれてきた。神話を知ることにより、古代の人々の思考・信念を知ることが出来、行動理念を知ることが出来る。そしてそれは、人間の叡智の歴史を知ることであり、ひいては我々自身を知ることにつながるのかもしれない。
現代でも、小説・漫画・アニメ・映画・ゲームなどの創作物の中には、神話の概念、神名などが散見される。神の名前をつけられた商品も多々ある。創作の原点という形で、現代の我々の生活の中にも神話は深く根づいていると言えるだろう。
神々に接することは一筋縄ではいかない。そして、それに対する人間もまた、知恵の限りを絞り、対策を講じ、もしくは理不尽を受け入れ、生きていく。
「神話」とは何か。その答えは一つではない。神とは何か、人間とは何か。その答えもまた一つではないだろう。本書を読んでいただくことで、その答えの基盤が示されることを期待する。


 

刊行に当たって

神話をもたない民族はない。人間が大いなる自然の驚異を前にしてそこに神を見、その自然が猛り狂い、大地が火を吹き、海が山をのみこむ時は、なぜ、そのように神・自然が荒れ狂うのかとたずね、その答えとして神の怒りの物語を想像するなら、そこに神話が生まれるのである。神話のない民族はなく、弱小部族と強大な大帝国との間に、神話の優劣はない、そのことを確認することもこの世界神話伝説大事典を構想した理由の一つである。
そうやって世界の神話を比較検討すれば、自然と人間とのしあわせな関係のあるべき姿もおのずから明らかになってくる。原初の人間の普遍的営為としての神話を世界規模で通覧することで、人間とは何かという問いに答える用意ができあがる。監修者はそのような観点から、あらゆる世界の口承、書承の神話を拾いあげ、共通の地盤で検討することを目指した。
ただし世界の神話を取り上げるにあたって、従来の類書のように欧米の事典の翻訳をしてことたれりとはしなかった。できる限り、現地語に堪能な専門研究者を糾合して神話の〈原典〉を直接取り上げることにした。この場合の〈原典〉は、無文字社会では口承伝承であり、書承文化ではできるだけ古いテクストである。そこで、国内はもちろん海外にもそれぞれの地域の専門家の参加を広く求め、書き下ろしの原稿をもらって、それを翻訳した。これは、すでに公表されたテクストの翻訳ではなく、この事典のために書き下ろしたテクストの翻訳であり、それぞれの分野での第一人者のフィールド調査をふまえた一次資料である。
読者はこの事典をひもといて、神話とは何かという問いについて思いを新たにすることもあろう。答えは必ずしも一つではない。神とは何か、人間とは何かという問いに対しても複数の答えが与えられるだろう。地域も言語も異なれば、神概念も異なるのである。しかしそこでもなお「世界神話」という概念をめぐってわれわれ執筆者たちがそれぞれに思いの丈を述べているその心意気を汲み取っていただければ幸いである。


篠田知和基・丸山顯德

 

本書の特色

【1】第1部「地域別概説編」では50の地域の神話について解説。特にアルメニア神話・グルジア神話・バルト神話など従来の神話事典では取り上げられて来なかった地域の神話、少数民族の神話なども紹介。

【2】第2部「神名等固有名詞編」では1500を超える項目についてとりあげ、全世界を統合して五十音順に配列することで、国や地域を超えた比較をしやすくした。

【3】100人をこえる専門研究者による執筆。従来の類書のように海外の書籍の翻訳ではなく、そのすべてが書き下ろし原稿。各地域の神話研究の第一人者による決定版。

【4】神話・伝説を知る上で重要な神名・固有名詞・テキスト名を網羅的に取り上げた総合索引を完備。神名・固有名詞等地域別一覧も付し。多角的観点からの利用の一助とした。



 

本シリーズの内容見本

世界神話伝説大事典』の内容見本です。







推薦文

ローカルでしかもグローバルな神話伝説大事典
上田正昭(京都大学名誉教授)
神話イコール歴史ではない。しかし神話は耳から口へ、口から耳へと語り伝えられてきた非日常のハレ(晴)の場(たとえば神まつりの場など)の口頭伝承である。神話をもたない民族はなく、語り伝えられている内容が不合理であっても、語る人も聞いている人も、それらは事実として信じられてきた貴重な文化遺産であった。
日常のケ(褻)の場(たとえば囲炉裏ばたとか茶の間など)で事物にそくして語られる伝説なども同様である。これまでの個別の神話や伝説の事典と異なって、日本・中国・韓国はもとよりのこと、アジア・ヨーロッパ・中東・環太洋地域・新大陸・アフリカさらにバスク・ロマ(ジプシー)までを取り上げている。第二部が神名等固有名詞編であるのも便利である。従来の神話事典では言及されなかったアルメニア・グルジア・バルトの神話などについて紹介・考察しているのも画期的といえよう。スケールの広い大事典として推薦する。


的確にひろい範囲の事例を取りあげた事典
大島建彦(東洋大学名誉教授)
どのような神話や伝説と取りくむにも、ひろく世界の諸国にわたる、きわめて多様な伝承とあわせ考えなければならない。この新しい『世界神話伝説大事典』は、従来はかえりみられなかった地域の伝承をも含めて、的確にひろい範囲の事例を取りあげており、新しい研究の進展をおし進めるものと期待される。

神話研究の大きな前進
吉田敦彦(学習院大学名誉教授)
このたび篠田知和基・丸山顯德両氏の編集によって、全世界の神話伝説をすべて一次資料によって総覧するという野心的試みの『世界神話伝説大事典』が、1000頁の大冊として完成され刊行されることは、真に慶賀に堪えない。編者の1人の篠田氏は、平成10年以来、当時グルノーブル大学教授であられた、中世ヨーロッパ神話研究の大権威者フィリップ・ワルテル氏と共に、ヨーロッパとアジアを中心に世界の神話を比較研究する会を組織され、毎年二回内外の気鋭の学者たちをわが国に集めて研究会(シンポジウム)を開催され、その成果を次々に刊行されて、斯学の発展に甚大な貢献をされてきた。丸山氏はそのあいだ、この研究組織の中心的な協力者であられた。世界の研究者たちによってこの分野で獲得されている最新の知見を結集した大事典が、これらの頑学者たちのご尽力でまとめられたことで、神話研究は大きな前進を果たすことになる。

 

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世界神話伝説大事典

世界神話伝説大事典

篠田知和基・丸山顯德 編

定価27,000円(本体25,000円)

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