日本語訳で隋を知る―『中国史書入門 現代語訳 隋書』刊行記念特集

 

中国の史書には「正史・野史・秘史」と様々なものが存在します。
中でも正史の総称「二十四史」は、司馬遷『史記』から始まり、清朝に完成した『明史』にいたるまでを言います。「正史」は中国歴代王朝が代々正統な歴史書として前王朝の歴史編纂を行ったものです。
その中でも古代「日本」と往来があった王朝「隋」の正史は、今まで「東夷伝」の中の「倭国」の項や「経籍志」・「音楽志」などが専門的に訳されてきました。
今回刊行致しました『中国史書入門 現代語訳 隋書』は、「隋書」の本質部分である本紀(皇帝の伝記)全文と諸列伝(人臣の伝記)を訳出しました。

 

刊行について

 「隋の煬帝って極悪な皇帝だったの?」
 「煬帝って大きな運河をひいたの?」
 「小野妹子が謁見した皇帝って煬帝?」
上記のように、「隋」といえば二代皇帝の「煬帝」がとても有名です。
今回『中国史書入門 現代語訳 隋書』では、今まで部分的には訳される事はあった「高祖・煬帝・恭帝」三代の本紀を全篇通訳し、本紀に登場する人物を中心に列伝を訳出しました。これにより「隋」王朝の皇帝と人臣たちの事蹟から「隋」という時代を辿ることができます。
物語としても読めて、堅苦しいと思われがちな歴史書の入門としては非常に面白い1冊です! 
さらに、「隋」を理解するためのコラムを7つも収録!これをキッカケに史書を読んでみませんか?

 

監修者・訳者インタビュー

監修者と訳者に、「史書の面白み」や「訳して面白かった部分」などの、中国古典の楽しみ方をインタビューしました。

◎中林史朗(なかばやし・しろう)
大東文化大学文学部中国文学科教授。専門は中国四川地方史、中国文化史。


Q.史書の面白みはどこにありますか?
 史書の面白みは、その文面の中に時代や人々の営為が、縦横に提示されている点です。この世の中で「人」ほど面白い存在は有りません。
 「人」の行動は、必ずしも一貫性が有るとは限りません。「人」の行動は、理性・情念・我欲・地位・金銭・利害・権力・人間関係・時代状況等々、その「人」を取り巻く諸々の条件に左右されます。「人」の苦悩・呻吟・決断等、将に「人」の営為そのものが提示されているのが、史書であると思います。
 故に、史書を読めば、読者自身の生き方が、合わせ鏡にように見られる点こそが、「史書の面白み」であると、言えるでしょう。


Q.漢文訓読で重要なことって何ですか?
 漢文訓読で一番重要な点、それは「日本語」の能力です。
 訓読すると言うことは、漢字だけの原文(漢文)の意味を考えて、古典的日本語の文章に置き換えると言う、一種の翻訳作業です。
 因って訓読は、訓読者自身が原文を意味の通った古典的日本語として正確に理解しているか否かが問われることになります。要は「日本語」なのです。漢字だけの原文の意味を考え、古典的日本語に置き換えて訓読し、同時に頭では訓読文の現代語訳を考えています。この「口(訓読文)」と「頭(現代語訳)」との瞬時のせめぎ合いの中で、訓読を変えたり逆に現代語訳を変えたりするのが、訓読の妙味でもあります。
 故に「訓読」は、「日本語」に因る奥深い翻訳作業なのです。



◎山口謠司(やまぐち・ようじ)
大東文化大学文学部中国文学科准教授。専門は中国文献学。


Q.史書の面白みはどこにありますか?
 史書のおもしろみ、それは読み返す度におもしろいことが発見できることにあります。 
 哲学、思想、文学、なんでもいいですが、いろんな立場から書かれた書物で、何度読んでもおもしろいものはあります。しかし、歴史書は総合学。ありとあらゆる要素がじつに盛りだくさんです。
 たとえば隋書、煬帝の蕭皇后の話ですが、当時、江南では2月に生まれた子どもは親に育てられない風習があったなんてことが書かれています。そして、ここから彼女の人生が短編映画のように描かれているのです。
 事実は小説よりも奇なりと言いますが、国家と絡んだ一人の人生がこうしてはじまる。史書、とくに正史はやっぱりおもしろい!これほどおもしろいものはありません!


Q.漢文訓読で重要なことって何ですか?
 漢文が、日本語だということを意識することだと思います。
 古来、中国の古典は、たとえ中国の人が書いたものであっても、日本の古典の伝統の上にあるものとして意識されていました。漢文は、フランス文学をフランス語で読むというような原書原語式読書とはまったく異質なものなのです。
 さて、本来、漢文の読書は、音読によって行われていました。目で文章を追って理解するのとは別に、聞いて分かるという分かりやすい日本語で読み下すことがひじょうに重要な読書のスタイルでした。
 漢文訓読をする際には、聞く人が聞くだけで文章の流れを追えるようにしていくことが最も重要なことだと考えます。



◎池田雅典(いけだ・まさのり)
大東文化大学文学部中国文学科非常勤講師。専門は漢代学術思想。


Q.『隋書』を訳していて面白かった部分・大変だった部分はどこですか?
 ながらく渡邉義浩先生の下で『後漢書』の全訳をやっていたのですが、慣れ親しんだ『後漢書』の描く「中国」と、『隋書』の描く「中国」とは、当たり前ですが全然違うんです、思考や行動の型が。後漢好きとしては率直に「隋の連中は野蛮だなぁ」と(笑)。
 『後漢書』には南朝知識人たる范曄が抱く理想の「中国」像が反映されていて、それを読んだだけの私でも北朝人士を野蛮だと感じるのだから、当時の南朝貴族と北朝胡族とではそれはもう相容れるわけないな、と。
 楊堅が後漢の大儒・楊震の子孫というのは虚構とされていますけども、せめてそうしてくれないと南朝の人々も従うに従えなかったんだろう、などと勝手に想像するのが面白かったですね。


Q.中国古典を読む際に重要なこと
 先程、言っておいてなんですが、「勝手な想像で読まない」ことでしょうか。時代も国も言葉も文化も違う相手の文章ですから、先入観で読むと意味を取り違えます。まずは書いてあることを書いてあるままに読もうとすること。個人の感想や分析は原稿を書きあげてから改めて考えることであって。
 あとは、他人と読み比べること。たぶん訳者みなここで私と違うことを言っていると思うのですが、それでこそ一緒に読む甲斐がある。そもそも自分と全く違うロジックで生きていた人の文章を読もうというのですから、自分の解釈を常に疑ってかかる必要がある。そこに違う見方を提供してくれる仲間がいれば、より正解に近づけるのかと思います。



◎大兼健寛(おおかね・たけひろ)
東京福祉大学名古屋キャンパス併修校 学校法人たちばな学園 理学作業名古屋専門学校専任講師。専門は中国五代十国史。


Q.『隋書』を訳していて面白かった部分・大変だった部分はどこですか?
 『隋書』の担当箇所を訳しながら、改めて中国史の面白さや興味深さを再認識できたことはよかったです。
 自分が専門としている時代(五代十国)とそれほど離れているわけではないのですが(といっても三百年ほど離れているのですが)、「隋」という時代独自の面白い箇所を発見するたび、気分が高揚しました。
 大変だった部分ですが、本紀・列伝を問わず、詔勅の箇所を訳するときは苦労しました。ひとえに自身の勉強不足が原因なのは承知しているのですが、あれは修行にも似たものがあったと思います。


Q.中国古典を読む際に重要なこと
 そもそも中国古典は中国の文化を文語の中国語で著したものであります。それを文化や言語の違う日本人が読む場合、どうしても違和感を感じるものです。それを取り除くため、或いは乗り越えるために、いろいろな情報を活用して文化や言語の知識を蓄えることが肝要です。
 そして外国の言葉を理解するためには、自国の言語をちゃんと理解していることも大事です。あとは独学も勿論すばらしいのですが、良き師と良き学友を得ることも重要です。



◎洲脇武志(すわき・たけし)
実践女子大学文学部国文学科・大東文化大学外国語学部日本語学科非常勤講師。専門は南北朝隋唐代学術思想。


Q.『隋書』を訳していて面白かった部分・大変だった部分はどこですか?
 面白かったのはなんと言っても楊素です。訳す前は、「煬帝の立太子に暗躍した奸臣」くらいのイメージしかなかったのですが、実際に彼の列伝を読んでみると、そこにいたのは文武両道の魅力溢れる大悪党でした。詳細は本書に譲るとして、その魅力は曹操に並ぶほどだと個人的には思います。
 また担当した李德林伝と許善心伝は、ともに彼らの歴史書に関わる文章を収録しているのですが、それらを訳すのに非常に骨が折れました。ただ、亡国の臣である二人がどのように歴史を捉えていたのか、またその文章を列伝に収録した『隋書』の編者の意図は何か、など考えていて面白かったです。


Q.中国古典を読む際に重要なこと
 辞書をこまめに引く、用例を調べる、使われている典故に気を付ける、ジャンルにこだわらず様々なことを知っておく……重要なことは上げたらきりが無いのですが、これら重要なことには、「文献に真摯に向き合う」という態度が通底していると思います。
これまで多くの先生から中国古典について教わってきましたが、先生によって文献への取り組み方は様々でした。しかし、この「文献に真摯に向き合う」態度はどの先生にも共通したものでした。
 もちろん、気軽に中国古典を読んでもいいですし、それで十分に面白いのですが、手間暇かけて「文献に真摯に向き合う」ことにより、いつもとはひと味違った面白さが見えてくるのではないでしょうか。



◎田中良明(たなか・よしあきら)
大東文化大学東洋研究所講師。専門は中国思想文化(術数学)。


Q.『隋書』を訳していて面白かった部分・大変だった部分はどこですか?
 面白かったのは、なによりも楊素です。楊堅のキレ芸も見応えが有りますが、「史臣」によると加齢に伴う症状らしく、少しもの悲しさを感じました。
 大変だったのは、とにかく詔です。毎週の読み合わせを重ねて半年ほどで訳者たちに具わりだした典故の存在を感じる詔力(みことのりちから)については他の訳者も触れているでしょうが、池田先生に読み方を倣いつつどうにか読んでいけるようになると、詔を読むのが一番楽しかったです。
 先人は勘ではなく知識で「この句の典故は何という本の何篇だ」と知れたのでしょうが、なかなかその域には及びません。今後も詔力の鍛錬に精進したいと思います。


Q.中国古典を読む際に重要なこと
 まず好きなこと、次に読む内容を先に知っていること、でしょうか。知らない話は日本語だって読めません。
 もっとも、生まれながらにして知るものではありませんし、大抵の漢文は当時の相当の知識人が書いているので、彼らの知識や常識に近づいていくことは困難を伴います。知らない文を読む時は知らないということを自覚して、知るように努力すること、そのためには人の訓読・翻訳でもいいから色々な漢文に目を通し、概説書や小説・漫画でもいいので文化風俗・制度習慣などの常識を身につけることが大事だと思います。
 そうした個々の知識や常識が目の前の文と繋がっていけば、読む前に内容を知っていることができるのだと思います。


 

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中国史書入門 現代語訳 隋書

中国史書入門 現代語訳 隋書

中林史朗・山口謠司 監修/池田雅典・大兼健寛・洲脇武志・田中良明 訳

定価4,536円(本体4,200円)

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