韻文/散文の二項対立の図式を問い直し、有機的な連環の中に捉え返すことにより、新たな文学史を描き出す。
本書を『古代散文文学引用史論』と題した理由は、通常「文学作品」に働いていると思われている「作家」の個性や、「時代性」という、言わば共時的・水平的な力に対して、個々の「作品」という孤立した在り方においてばらばらのものとして捉えるのでなくて、文学史を通して開き、インターテクストとして関係づけること、共通性を見出すことで、作品の意識下に働いているであろう通時的・垂直的な規制力、すなわち伝承の力の解明と、その伝承という規制力に沿いつつも、私自身の読解による新たな意味の生成の「場」に遭遇できるのではないかという、ささやかな期待と見通しによるものであった。文学史的に通して見るからこそ言えることは、多々あるのではないだろうか。本書は『古事記』から『土左日記』、『大和物語』、『源氏物語』、『堤中納言物語』および中世王朝物語を、そのような「引用の文学史」という発想で通し連ねているのである。
(「はじめに」より)
目次
1_垂直他界観と水平他界観の交錯・『古事記』の宇宙論
―「葦原中国」と「黄泉国」・「根之堅州国」の関係性を焦点に―
2_「波の底なるひさかたの空」貫之的鏡像宇宙と水平他界観
―古代散文文学史遡行『土左日記』から『古事記』・『風土記』へ―
3_「女もしてみむとてするなり」『土左日記』の虚構の方法
―劣位項の脱構築もしくは象徴的な〈女〉への共感の論理―
4_歌物語の引用と物語想像力
―プレテクスト『大和物語』の再評価―
5_召人浮舟入水と続篇の物語主題
―身代りの〈生〉の反復と離脱―
6_喩と象徴の『堤中納言物語』
―「虫めづる姫君」のパロディ・ジェンダー・セクシャリティ再考―
7_『源氏物語』引用の文学史
―中世王朝物語への回路―
8_『源氏物語』〈語り〉と〈言説〉の研究史展望
―草子地論から語り論・言説論へ―
9_三谷邦明のテクスト論・覚書
―動態・脱構築・近代批判―
10_源氏物語研究の新しいテーマ集50