『キーピング・アーカイブズ Keeping Archives』連載第2回

 

第17章|音声記録 sound recordings

3. 視聴覚アーカイブ活動における倫理

視聴覚アーカイブ活動の倫理規定は、ほとんどの点で一般的なアーカイブズのそれと合致している。倫理感は、いかなる視聴覚素材を管理・保護する上でも重要な役割を果たすものだが、アーキビストに一層の倫理観が求められるのは、保存およびコレクション構築においてだ。とくに動的映像の保存においては、倫理規定の提言するレベルに達するのが難しい場合もある。そのような状況においてこそ、倫理規定に関するガイドラインが一連の行動を支援する有用なツールとなる。

視聴覚アーキビストの規定が、個人の職業的な倫理を強調している点は興味深い。このことから、〈動き、そして喋る〉ドキュメントに携わる情熱あふれる寄贈者・作成者・利用者が、コレクション管理者に対して持ち得る影響力の大きさがうかがい知れる。視聴覚記録は、現在進行中の実際の出来事を捉える。それゆえ、文字の情報が表現することのない2種の情報、つまり時間と感情とを明確に表現する。これが記録への感情的な結びつきになり、利害の衝突へと姿を変えることもあるのだ。視聴覚素材の取得に際して、作成者や遺族とのあいだに親密な関係が築かれることも少なくない。その後の記録管理にも全面的に関与したいと考える作成者も中にはいる。その後の作業に作成者や寄贈者も継続的に関わるとなると、倫理行動に圧迫がかり、例えばアクセス要求や保存対象の提言に、つい優先順位を付けてしまうことになりかねない。

視聴覚コレクションの管理に従事する者は、ある特定の収集対象または特定のメディアに対して専門的な技術を発展させるかもしれない。たとえその組織の評価や保存の方針が最善のものでも、このことが原因で収集領域やメディアに偏りが生じる可能性がある。視聴覚記録の取得と保存の優先順位付けは、資料について理解がより深く、取得のためのネットワークを持ち、保管目的で扱うことのできる人物でなければ担当できないだろう。これは、視聴覚メディア単独の問題ではないが、視聴覚メディアにおいて特筆すべきことだ。

■保存における倫理

保存には、多くの倫理的問題が伴う。そのいくつかには後ほど保存のセクションで触れるとしよう。しかしながらこの問題は視聴覚記録全体に当てはまるので、ここでもいくらか省察するに値する。

復元過程のドキュメンテーションは、いかなるアーカイブズ記録にとっても大切だ。視聴覚記録の場合も、ドキュメンテーションなしに復元過程を検出することは、不可能でないにせよ困難だろう。テープやフィルムの形状など、素材の幅が広がれば広がるほど、何がなされたのかを探り当てることは難しくなる。例えば、相当量のスプライス〔接合〕箇所のある100メートルのフィルムを巻き取るとき、どれが新しいスプライスか、またそのスプライスがいつ施されたかを見分けることは、極めて難しい作業になるだろう。

ドキュメンテーションの重要性がとりわけ高まるのは、受け継がれたフォーマットとオリジナルのそれがまったく異なる場合だ。『少年と海』〔※1976年のオーストラリア映画で、日本でのビデオ発売時の改題は『ストームボーイ/さよならミスター・パーシバル』〕を配信用のQuick Timeクリップ、あるいはVHSテープで提供する際は、それが90分の劇場公開用35mmフィルムから作成された視聴用コピーだと閲覧者に知らせるべきだ。

視聴覚アーカイブでは、オリジナルに忠実なコピーの作成が倫理にかなう実践とされる。保管の観点から、目指すはオリジナルのクオリティの保存だ。視聴覚メディアの中には、コピーすることでクオリティ低下が避けられないものもある。ここでは、具体的に映画フィルムやその他のアナログ・メディアを想定しているが、コピーを繰り返すごとにアナログ・メディアのクオリティが落ちることはよく知られている。コピー機でコピーした書類のコピーのコピーを考えれば、アナログからアナログへのコピーにおける劣化が不可避であることはおわかりいただけるだろう。付録(17.2)にあるアナログ・メディアの解説を参照されたい〔※本テキストでは割愛〕。

オリジナルに忠実なコピーの作成に関して、2つ目の重要な要素は、現代の水準に合わせて記録を〈改善〉するために新しいテクノロジーを使用したくなる気持ちを抑えることだ。

デジタル保存の世界には改変技術が存在するので、適切な扱い方とは何か、また、デジタル化の際の決定事項をいかに記録するかについて、道徳的な配慮が必要となるだろう。保管と復元の境界線を曖昧にするのは容易だ。だからこそ、注意深いドキュメンテーションが求められる。

 

4. 視聴覚記録の専門用語

視聴覚資料を製作する業界と視聴覚アーカイブ活動の領域には、それぞれ独自の専門用語・語彙・概念がある。視聴覚記録を記述するための用語は、文脈や国によって異なる意味や含みを持つこともあり、これまでのところ、専門用語に関する国際的な標準またはコンセンサスはない。したがって、用語の意味や解釈は必ずしも明瞭ではない。こうした技術的な用語に加え、アルファベット・数字・アクロニムも無数に存在する(例えばABロール、VHS、CD、DA88、Hi8、LTO、IASA、FIAF)。この分野の技術的な専門教育を受けていないアーキビストにしてみれば、こうした専門用語は取り付く島もないほどやっかいなものに感じられるかもしれない。視聴覚アーカイブ活動は成長著しく、それゆえ語彙も常に進化していることを覚えておこう。

視聴覚アーカイブ活動において使用される用語は、アーカイブズ学の専門用語として定着している用語と異なる意味を持つことがある。単純に思われる〈視聴覚〉や〈ドキュメント〉のような言葉ですら、定義は複雑になり得る。例えば視聴覚という用語は、「あらゆる形状の動的映像または音声記録」「ラジオとテレビ」「音付きスライド上映」「マルチメディア上映」「スチル写真」「ビデオゲーム」「スクリーンに投射されるものであれば何でも」といった多様な定義を包含して使用されてきた。

専門用語を回避しようと心がけても、それが常にうまくいくとは限らない。参考文書、関連するドキュメンテーション、目録、ラベル、コピー作成時の仕様書など、アーキビストは様々な業務の中で専門用語に遭遇することになる。視聴覚記録を扱うアーキビストが一般的な専門用語を身につければ、メディアを分かりやすく説明するのに大いに役立つだろう。制御された、あるいは標準化された語彙を定義・構築することは、コレクションにとって有益だろうし、そのためには一般的な用語を分析し、手元にあるコレクションのコンテクストに適用することになるだろう。

 

■第17・18章で共通して使用する用語

[視聴覚]既に知られている、あるいは今後発明されるあらゆるメディアに記録された動的映像および/または音声記録のこと。視聴覚には動的映像および/または音声記録を具象化するフィルム・ビデオテープ・カセットテープ・デジタルファイル・機械可読式またはコード化されたデータが含まれるが、これらに限定されるわけではない。

[キャリア]視聴覚コンテンツが記録された物理的なメディアのこと。例えばオープンリール、カセットテープ、ロール状のフィルム、ディスクなど。

[メディア]情報を作る、または運ぶのに使用される素材の種類のこと。例えばビデオテープ、ネガフィルム、写真光学ディスクなど。大抵の場合、フォーマットとほとんど同義で使用される。

[コンポーネント(構成要素)]同じ技術を使った関連あるキャリアの仲間で、それらがまとまって一つになっているもの。例えば3巻のフィルムから成る複製ネガなど。エレメントと呼ばれることもある。

 


(第3回につづく)

Keeping Archives, 3rd

Copyright (c) The Australian Society of Archivists, 2008.

First published by The Australian Society of Archivists.

オーストラリア・アーキビスト協会からのご配慮に厚く御礼申し上げます。

 

翻訳者プロフィール

NPO法人映画保存協会

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映画保存協会(Film Preservation Society, FPS)は映画フィルムを文化財として保存する活動に取り組むNPO法人です。

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