『キーピング・アーカイブズ Keeping Archives』連載第3回

 

第17章|音声記録 sound recordings

5. 視聴覚記録の評価

多くの組織にとって視聴覚記録の評価は未だハードルの高い業務ではあるが、手始めとして、ほとんどのアーカイブズに対して使われている標準を試してみるといい。組織の全体的な選別方針に立ち返ったとき、それと矛盾しない選別基準になっていれば最も効果的だ。その記録によって即座に、あるいは将来的に、関連性のある資料や重要な資料がアーカイブズに加わるだろうか? 従来、視聴覚メディアが受け入れられてきた価値の源泉を辿ると、美学的・情報的・文化的なコンテンツに行き着く。しかしながら、持ち運びできる録音機器の発達に伴い、例えば野外録音、王立委員会〔※コモンウェルスにおける公的な調査委員会〕への提出物、そして科学的データといった証拠収集のツールとして、より広範に視聴覚メディアが使用されるようになった。そのため、傾向としては証拠としての価値が高く評価されつつあるようだ。。

ひとたび選別を行うとを決めた組織は、選別方針の基準を定めねばならない。単に基準を定めるだけでなく、現実的な情報に裏付けられた実践方法も必要になる。これまで多くの専門的なアーカイブズや諸団体が、視聴覚素材を保持するための方法論と選別基準を発展させてきた。

大抵は、伝統的な文字の記録に対して採用される評価の影響が視聴覚記録にも及ぶことになる。簡明かつ有効な方法は、3つの広義のカテゴリー、つまり社会学的価値・文化的価値・歴史的価値の検討だ。そのための準備段階として、広範に渡る記録の出所を理解し、利用者のニーズを掴み、メディア史の基礎知識を身につける必要がある。
文字中心の世界にいるアーキビストは、まずコンテンツやコンテクスト、続いて、いかにその記録がコレクションまたは取得方針に適合するかという点に基づいて評価を下す。しかしながら、視聴覚記録を扱うとなるとそれは難しい。実際的のところ、テクノロジーの要素を無視することはほとんど不可能なのだ。テクノロジーは何よりも市場原理の動機付けによって変遷する。記録管理的またはアーカイブズ学的な観点からメディアの寿命や信頼性が考慮されることなど、まずあり得ない。新種のテクノロジーが登場すると、商品競争の時期を経て業界基準に至ることが多い(例えばビデオテープのベータ方式 vs. VHS方式)。この現象によってアーキビストには次のような結果がもたらされる。

●多くの標準形式および非標準形式のコレクションが、アーカイブズとしての管理に必要なテクノロジー・専門知識・信頼性を伴わないものになる。

●テクノロジーの形式や入手可能なバージョンの複雑さと多様性に遅れることなく理解に努めるのは至難の業となる。

いかなる視聴覚記録の評価も、記録されているメディアの性質次第でより複雑に見えることがある。同じ名称を冠した多数のアイテムの中から、どのコンポーネントを残すかを判別するのは極めて困難な作業だ。コレクションの中に多様なメディアが存在することもあれば、同じコンテンツの複数のコピーやコンポーネント、あるいは別バージョンの記録もあるかもしれない。オリジナルの記録をいかにして同定/識別するのだろうか?アーカイブズ的な記録として保持するに値するかどうかを明確にできるだろうか?保存し、アクセスに供するのは、その記録のコンテンツおよびメディアの全体験なのか、あるいは視聴覚記録の情報・見た目・感触なのか、おそらくアーキビストは決定を迫られる。

こうして評価の過程にもう一段階、技術的な選別が加わることになる。その結果、次の点において基準を勘案することになるだろう。

[コンテンツ主体の基準]コンテンツまたは資料の証拠的かつ情報的な価値に基づいた選別。

[技術的な選別基準(技術的側面による選別)]形式・メディア・記録の質・制作過程・状態・陳腐化

次のような特徴も視聴覚資料の評価に影響を持つかもしれない。

その記録はアーカイブズの収集方針に当てはまるだろうか? 他の記録に類似する、あるいは他の記録の有用性を高めるようなコンテクストを提供する視聴覚記録であれば、保持されることもある。記録を維持するためのコストは、その有用性に見合うだろうか?視聴覚記録は、文字の記録には滅多にない芸術的または文化的価値を伴うことが多く、そのような価値を加味して保持されることもあるだろう。

その記録は公開済みか、未公開か、あるいは放送されたのか?

  • 公開された資料や商業目的の資料は、どこか別の組織にも保存されている可能性が高い。所蔵していそうな組織はどこだろうか?視聴覚メディアの管理と保存に必要な予算・人員を理解した上で、それでも尚その記録について別の組織に照会する価値はあるだろうか?厳密にはマスター・コンポーネント(例えば写真光学的な記録からプレスしたマトリックスやマスター録音テープ)でもない限り、コレクションとしては相応しくないかもしれない。
  • 未公開の資料の場合、他の組織に存在する可能性は低い。未編集の素材には、配給または放送された資料よりずっと多くの情報が含まれ得る。例えば、オーラルヒストリーの全録音物は、最終的な成果物に含まれる情報量を凌ぐだろう。この種の資料の再利用性に着目する組織もある。
  • 放送された番組の録音・録画は、放送局のアーカイブズなど、やはりどこか別の組織で保存されている可能性が高い。

[唯一無二のコンテンツ]その記録には複数のバージョンや翻訳が存在するだろうか? オリジナルなのか、それともコピーなのか?

[形式とメディア]形式の質はどうだろうか?保持するに見合うだけの質が保証されているのか?陳腐化または劣化の可能性が高いだろうか?

[唯一無二のフォーマット(または希少性)]同定/識別できない形状の記録は、たとえコンテンツの価値が低くても、唯一無二の存在として重要かもしれない。形式によってはメディアの脆弱性もあって、残存したものすべてを一律的に収集対象にすることもある。そのような形状の同定/識別や適切な処置については、それぞれのメディアの専門家が助言してくれるだろう。

視聴覚関連組織が推奨するそのほかの基準は次の通りだ。

[完全性の度合い]すべてのバージョン、完全なバージョン、適切なコンポーネントのすべて、あるいは全シリーズが保持されているといったように、完全性が考慮されることがある。完全性の基準は、メタデータや記録にまつわる情報にも関わることがある。視聴覚記録が単独で作成されることはほとんどない。記録が保持されることになったら、それを支えるドキュメンテーションにも配慮しよう。関連記録が維持されないと、視聴覚記録はコンテクストの多くを失い、それゆえに価値まで失ってしまうだろう。

[入手可能性]その記録は他所にも存在するだろうか? 別組織に存在することを理由に記録を保持しないと決めたとしよう。その別組織はアクセスを提供しているだろうか?仮にその記録を保持するとして、あなたの組織ならアクセス可能にできるだろうか?

[質量]既に棚に置かれている資料だけでなく、これから作成される資料も含めて、資料の体積も考慮しよう。視聴覚資料の作成や機材の入手が容易になるに連れ、より多くの人々が視聴覚記録を作成する術を身につけ、記録の量を増大させる。そのため、保持あるいはアクセス提供できる限界を遥かに超える量の資料が生み出されることになりそうだ。将来的には多くのアーカイブズが、記録の発生時点の選別を必要とするだろう。

おそらく視聴覚資料を扱うアーキビストは、標準的なアーカイブズの評価を検討するだけでなく、次のことも考慮する必要がある。

●視聴覚記録の管理・収蔵・保存(マイグレーションを含む)に関わる長期的な人員・予算

●視聴覚記録の管理・収蔵・保存(マイグレーションを含む)に関わる長期的な能力

●途切れることのない記録の利用可能性

●網羅的で正確な記録を文脈化し、確実に維持・利用するための文字主体の補足資料の入手可能性

既に、視聴覚メディアにざっと目を通すことの難しさ、そして、たいていの視聴覚メディアが脆弱なことには言及した。視聴覚メディアは、価値を査定するために再生するだけで損なわれてしまうこともある。貴重なものにも関わらず劣化した素材を所有しているという意識があれば、評価や記述といった作業を進める前に、保存作業が優先されるのは当然だろう。

 

(第4回につづく)

Keeping Archives, 3rd

Copyright (c) The Australian Society of Archivists, 2008.

First published by The Australian Society of Archivists.

オーストラリア・アーキビスト協会からのご配慮に厚く御礼申し上げます。

 

翻訳者プロフィール

NPO法人映画保存協会

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映画保存協会(Film Preservation Society, FPS)は映画フィルムを文化財として保存する活動に取り組むNPO法人です。

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