『キーピング・アーカイブズ Keeping Archives』連載第6回

 

8. 音声記録フォーマット

ここまでのところは音声記録も含め、あらゆる視聴覚メディアに関わるアーカイブズの活動を幅広く論じてきた。ここからは音声記録フォーマットの歴史、コレクションにおける位置付け、保存やアクセスに影響を及ぼす要因などを吟味していく。動的映像の同定/識別・保存・アクセスについては。18章(動的映像)で詳しく論じる。

いかなるアーカイブズの実践においても、コレクションに含まれる各フォーマットの特徴を事前に理解し、同定/識別しておく必要がある。

〈フォーマット〔形式〕〉という言葉は、音声記録メディアの多くの特徴—例えば12インチのアナログレコード、1/4インチのオープンリール、コンパクト・ディスク(CD)といったアイテムの物理的な形状や寸法を表すこともあれば、デジタル・オーディオ・テープ(DAT)、WAVEデータファイル(*.wav)といった録音方式を表すこともある。この2つの特徴、つまり物理的なモノと録音方式とが(SPレコードがまさにそうであるように)本質的に結び付いているフォーマットは、メディア依存フォーマット(もしくは有形フォーマット)と呼ばれる。

デジタル・ファイルのように物理的なモノと録音方式が分離している場合もある。格納メディアに依存しないこのようなフォーマットは、一般的に非メディア依存フォーマット(もしくは無形フォーマット)と呼ばれる。CDに収録されているデジタルの *.wavファイルを考えてみると、CDは単にデータファイルを格納する機能しか持たず、ファイルのフォーマットや本質を変えることなく他のメディアに容易にコピーできる。

これからのアーカイブズ機関には、メディア依存フォーマットも非メディア依存フォーマットも両方増えていくことだろう。

アーカイブズ機関に放置されていると考えられる最も一般的な録音フォーマットは、広く普及した次の3つの記録方式の何れかと思われる。

●[レコード]アセテート、シュラック、ビニール〔バイナル〕などのディスク、その前身のワックスシリンダー〔鑞管〕

●[磁気テープ]1/4 インチのオープンリール、カセットテープ、マイクロ・カセットテープ、デジタル・オーディオ・テープ(DAT)、その前身の磁気ワイヤー録音

●[光学ディスク]コンパクト・ディスク(CD)、デジタル・バーサタイル・ディスク(DVDまたはデジタル・ビデオ・ディスクとしても知られる)

アーカイブズ機関のコレクションに顕著なのは、主に磁気テープの頃—オーストラリアの場合、1950年代初頭にまで遡る—もしくはそれ以降に作成された音声記録だろう。アーカイブズ機関のコレクションに最も多い物理的なフォーマットには、1/4インチのオープンリールやカセットテープがある。さらに新しい素材では光学ディスク、要するにCD・DVD・ミニディスクが一般的だ。何れにしても入手可能なフォーマットが幅広いだけに、コレクション全体の音声記録が一つのフォーマットに収まるようなことはないだろう。

音声記録フォーマットを同定/識別する際、音楽業界に独自仕様のフォーマットが増えていることも忘れてはならない。企業は、新技術の活用によって他社から頭一つリードするため、次々とフォーマットを開発する。結果として、新たなフォーマットごとに異なる操作方法や再生技術が求められることもある。

[1]音溝式録音技術—アナログレコードの録音

汎用性を持った録音・再生技術の中で最も古い技術は、アナログレコードのフォーマットだ。

音溝を持つシリンダー〔円筒〕と同時に開発された平らなディスク〔円盤〕のSPレコードは、時と共にシリンダーを追い抜いて普及していった。いわゆる〈レコード〉(12インチのバイナル)として知られているものや、SP盤〔蓄音器盤/蓄音機盤〕の原型に当たるのは、米国のエミール・ベルリナーによる1887年の特許品だ。ベルリナーが録音方式を設計したディスクは、油煙—後にはラッカー—でコーティングしたガラス製のディスク表面に音溝が渦巻き状に刻まれていた。この発明以後、初期のほとんどが金属製やガラス製の堅い基板をナイトレートやアセテートで覆い、それをラミネート処理やラッカー処理したものだった。音溝は、ラッカーのコーティングをレコード針で削って作った。初期には、録音後に何ら処理を加えず、そのまま再生可能なディスクも存在した。直録音または即席録音と呼ばれたこうした即席ディスクは、磁気テープ録音が登場するまでとくにラジオ局で広く使われたことから、アーカイブズのコレクションの中にも見受けられる。オーストラリアでは転写ディスクという名称でも呼ばれる。

アナログレコードの発明によってもたらされたのは、複製可能という特長だった。この特長にこぞって飛びついた営利目的の音楽業界は、プラスチック技術の発展に伴いレコードの大量プレスへと傾れ込んだ。しかしながら、柔軟で〈割れない〉素材に音溝を刻むディスクの生産技術をレコード会社が採用したのは、1950年代のことだった。これは我々が10インチや12インチのLPレコードとして認識しているのと同じものだ。1980年代、アナログレコードはついに光学ディスクに取って代わられ、今では時代遅れのフォーマットと見なされている。原理的には光学ディスクやレーザーディスク〔LD〕も溝刻方式を引き継いでいるが、本章では異なるフォーマットとして扱うことにしよう。

[2]磁気テープ

磁気テープ録音は、過去50年ほどの間は手軽に入手できた。数年前までアーカイブズ機関に見受けられる最も一般的な音声記録フォーマットでもあった。最初の磁気録音テープは金属製で、口述や電信に使用されたが、しばらくして安価な代替手段—柔軟なテープを粉末状の磁性体で覆ったもの—が考案された。

当初は、1/4インチ幅のオープンリールとして発売されたが、磁気テープのフォーマット進化は、例えばオーディオカセット、マイクロ・カセット、デジタル・オーディオ・テープ(DAT)のように、様々な種類のカセットにテープを収める形へと向かった。

音声記録に使用する磁気テープは、透明で柔軟なフィルムベース層と磁性層という素材の異なる二層から成る。磁気テープ録音は、放送業界(ラジオとテレビ両方)で広く使用された。元々の録音機材は大きく重かったが、次第にテープ自体や録音技術が進化し、ポータブル録音機が開発されるまでになった。当初はプロ向けの市場で使用されていたが、メーカーは瞬く間に家庭やアマチュア市場を目指すようになり、その結果、カセットのフォーマットは家庭用のオーディオ録音機材として発展していった。すぐさま消費者市場を席巻したコンパクト・カセットは、最近まで広く用いられていた。

何年もの間、アーカイブズ機関において保存用フォーマットとして好まれたのは、プロ用1/4インチのオープンリールだった。このフォーマットは、アーカイブズのコレクションの中にオリジナルとしても存在すれば、保存用コピーとしても存在する。そして現在使用されている保存用のフォーマットといえば、デジタル・オーディオ・フォーマットだ。音声記録の長期保存用として推奨できるオーディオカセットのフォーマットは見当たらないが、それでも野外録音やオーラルヒストリーの録音に度々使用されたカセットテープは、オリジナル記録としてアーカイブズ機関に頻繁に見受けられる。

今では、ほとんどの録音テープのフォーマットが時代遅れと見なされている。従って、コレクションの中に磁気の音声記録は多いが、技術は次第に入手しづらくなりつつある。最終的には再生や再作成の手段は消滅するだろう。ビデオ録画用の磁気テープは、とくに家庭のビデオ市場向けに現在でも使用されているが、これらの技術は、情報通信技術(ICT)分野の一部として徐々に吸収されていくものと考えられる。コンピュータやICTの分野では、磁気メディアや磁気テープが未だ大きな役割を果たし、コンピュータのバックアップやストレージとして使用されている。アーカイブズ機関に見受けられる多くのデジタル・オーディオやビデオの録音・録画は、現在はLTOテープやハードディスク・ドライブのようなデータ用磁気ストレージに収蔵されつつある。

[3]光学ディスク

光学ディスクは1980年代後半以来、一般的に音声ドキュメントのための記録メディアとして使用されてきた。光学ディスク、もしくはレーザーディスクとして知られているものとしてCD・DVD・ビデオディスク・ミニディスクがある。

コンパクト・ディスク(CD)は、情報の記録や頒布のために広く用いられる技術の一つとなった。当初は、エンコードされた音声を収録・再生するために開発されたが、すぐに一般的なデータを頒布するための理想的なフォーマットだと判明した。CDやDVDの類は、今ではアーカイブズ機関に見受けられる音声記録などドキュメントの記録・格納のための一般的なフォーマットとなり、使いやすさ、手頃な価格、一般的な親しみやすさなどから、好んで用いられている。

光学ディスク上のコンテンツは、ディスクの反射層にホールやピットという表面上の窪みとして刻まれている。情報を得る際は、回転するディスクに対してレーザー光を照射する。ディスク上の窪みを見つけたところで、レーザー光が再生装置に反射し、再生信号へと変換される。DVDはCDを高密度に改良したもので、記録層が薄い二層に挟まれている。物理的な形状はCDと同じだが、短い波長のレーザーを使用することでより多くの情報が利用でき、CDよりも多く情報を蓄えることができる。

光学ディスクは薄板状の構造をしている。

●[基板]透明なポリカーボネートから成る。

●[記録層]CD-ROMは、ポリカーボネート層の上に位置する表面部分全体が記録層になっている。記録層は、ポリカーボネートの表面に凹凸状に刻まれた長さの異なる〈ピット〉(穴)と〈ランド〉(穴でない部分)のトラックから成る。記録可能ディスク(CD-R)も、ポリカーボネート層の上に位置する表面部分に有機染料の記録層を持つ。CD特有の見た目はこの色素層のためで、反射層に使用された金属に応じた色をしている。書き換え可能ディスク(CD-RW)では、記録層は合金製フィルムだ。

●[反射層]あらゆるCDの基板と記録層は反射層で覆われており、通常はアルミニウム・金・銀といった金属や合金が使用されている。

●[保護層]反射層は保護ラッカーで覆われている。このラッカーはラベル貼付やコンテンツ情報としても使用される。
3つの主要な光学ディスクの種類は次の通りだ。

● 読み出し専用ディスクには事前に記録された情報が収録されていて、利用者による変更や追記はできない。より適切な用語はCD-ROM(ROMは〈読み出し専用メモリー〉を指す)だ。これらCDは複製CD、つまり商品として販売されているディスクの類としても知られ、LDや30cmのピクチャーディスクなど、時代遅れのフォーマットが何種もある。マスターからプラスチック層へと物理的に型打ちされるという点で、溝を刻んだレコードと似ている。

●(一度だけ)記録可能な光学ディスクとは、追記できない空のCD-RやDVD-Rといった名称で、反射層のすぐ上、主要部分を占めるポリカーボネートの表面下に色素層を持つ。色素層の短いセクションを伝達部と非伝達部に分割するのが記録用のレーザー光だ。読み取り用のレーザー光を通して、この部分が金属の層に反射するか、あるいは吸収されるかによって、型押しされたディスクのピットと同様の信号を作る。

● 書き換え可能な光学ディスクは、情報を記録・消去・置換できるCD-RW、CD+RW、DVD+RWなどを指す。合金を熱して二つの位相状態を作り出し、それをレーザーで読み取り、位相を変えることでデジタル信号を登録する。記録するには専用のハードウェアが必要だ。

 

(第7回につづく)

Keeping Archives, 3rd

Copyright (c) The Australian Society of Archivists, 2008.

First published by The Australian Society of Archivists.

オーストラリア・アーキビスト協会からのご配慮に厚く御礼申し上げます。

 

翻訳者プロフィール

NPO法人映画保存協会

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映画保存協会(Film Preservation Society, FPS)は映画フィルムを文化財として保存する活動に取り組むNPO法人です。

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