『キーピング・アーカイブズ Keeping Archives』連載第7回

 


[4]データファイル

もう一つ議論を要する音声記録フォーマットがある。それがオーディオ・データファイルだ。この種の方式における音声記録は、固有のキャリアを持たないデータファイルとして作成され、格納される。アーカイブズ機関が受け取るのは、2つのソースのオーディオ・データファイル―すなわち、機関内で作成された〈ボーンデジタル〉、もしくはオリジナル記録からデジタル化されたコピーだろう。

データファイルとは、音の波形をon / offのデータ列に変換したデジタル信号だ。音の波形の特徴は、データ列上のポジションの違いとして記録されている。以前は様々なコンピュータ・アプリケーションがこのエンコード作業を行っていた。エンコードされたデータは、例えばCDや磁気テープのフォーマットなど、いかなる物理的なキャリアへも出力できる。音声記録の場合、例えばインターネット上で利用可能なMP3オーディオファイルや、大容量ストレージ上の *.waveファイルなど、エンコードされたデータ・フォーマットへの直接アクセスが徐々に増えてきている。こういった国際的な傾向を受け、オーディオ・データファイルや大容量ストレージといったものが、小規模なアーカイブズにとっても現実味を増しつつある。

オーディオ・データファイル・フォーマットには次のようなものがある。

● WAVE – WAV(*.wav)またはBWF(BWF.wav)

● MP3 – MPEG -1/2、Layer3(*.Mp3)

● RealMedia -《RealAudio》(*.Ra, *.Rm, *.ram)

● AIFF – Audio Interchange File Format(*.aif, *.aiff)

● FLAC – Free Lossless Audio Codec(*.flac)

● Windows Media Audio – WMA(*.wma)

● SUN Audio(非圧縮)(*.au)

● Standard MIDI(*.Mid, *.midi)

● Ogg File Format(*.ogg)

上記リストの最初の3つのファイル・フォーマットは、最も一般的なだけに、アーカイブズ機関のコレクションにも含まれるだろう。どういったファイル・フォーマットが存在し、それぞれ最も顕著な用途が何かを知っておくと役に立つ。例えばAIFFは、高品質な音源を格納するためにアップル社が開発したもので、RealMediaは一般的にWeb配信を目的として使用される圧縮フォーマットだ。そういったことを把握していれば、記録を効果的に記述・管理・保存できるようになるし、取得時や作成時にも、同定/識別が可能になる。上記リストはオーディオファイル・フォーマットを網羅するものではないので、より多くのフォーマットを含む米国議会図書館のウェブサイト「NINCHガイド」のリストを参照されたい。

コンテンツの頒布やアクセス目的で使用される多くのデジタル・フォーマットは、暗号化や圧縮を採用している。ここにはウェブ上で頒布されているファイルも含まれる。

視聴覚フォーマットを同定/識別する際に注意を払うべきこと―それは、デジタル記録がデータファイルの唯一の領域ではないという点だ。磁気テープのような物理的なキャリアの多くには、デジタル・オーディオ信号もデータファイルも収録可能だ。コレクションの中のテープもしくはCDは、単にデジタル・オーディオの〈ストリーム〉(信号)として記録されていることもあるし、あるいは、データファイルとして記録されていることもある。従って、適切な場所に正しいメタデータ付与とラベル貼付が求められることは言うまでもない。視聴覚記録のためのフォーマットの選択・作成の判断は、将来の保存やアクセスの選択に影響するので、注意深く行わねばならない。例えば、オーディオCD(デジタル・オーディオ・ストリームのCD)は、オンライン・アクセスの可能性を制限し、将来のマイグレーションを困難にするのではないかと懸念されている。

[5]音声記録を保存する

[予防的な保管]膨大な量の記録をケアする環境制御のような、先を見越したマクロ戦略。

[保管取り扱い]個々の記録を補修する、あるいは安定させるための介入。

[復元]個々の資料を可能な限りオリジナルの状態に近づけて元に戻す保管上の取扱い。大抵の場合は時間とお金のかかる美学的な処理で、アーカイブズ機関の記録に対して施されることはあまりない。

保存とは孤立した業務ではなく、永久的な管理上の使命だ。アイテムを良好な収蔵環境に置くこと、あるいは新しいコピーを作成することが業務の終わりを意味すると思い込みがちだが、音声記録メディアには継続的な査定・概要調査・マイグレーションが求められる。音声記録メディアがあっという間に時代遅れになって使用できなくなるのは、視聴覚メディアを扱ういかなるアーカイブズ機関にとっても苛立たしいことだろう。ハードウェアもソフトウェアも急激に変化するので、メディアを保存したからといって必ずしも再生できるとは限らないのだ。

保存の総括的な目的は第4章(保存)で扱っているが、とくに音声記録コレクションのための具体的な保存原則となると、次の通りだ。

● 手に入れられる限りの最良のコピーおよびメディアを取得またはキャプチャする。

● 保全の行き届いた持続可能な収蔵環境にオリジナルを保持する。ここには、デジタル記録を持続可能なデジタル・ストレージに確実に保管することも含まれる。

● オリジナル・アイテムの完全性を維持する。

● クオリティ低下やコンテンツ改変を最小限に留めてアイテムをコピーすることを目指す。アイテムのためのあらゆる処置およびコピー作成作業の記録を残す。

● コンテンツを安定させる。オリジナルのアイテムに害を与えない。

● 必要な全記述情報・出所・補足的なドキュメンテーション・メタデータを記録し、保持する。

● コレクションへのアクセスとそのコンテンツの保全を未来に向けて確実にする。オリジナルの安定と安全を確保することなく、アクセスやコピー作成を実行すべきではない。

音声記録を扱うアーキビストの第一の目標は、手元にある音声記録メディアの寿命を延ばすことだ。不死身の音声記録メディアはないが、できる限り長く使える状態にキャリアを維持するため、できる限りの努力をせねばならない。

ほとんどの素材は、保存のための特定の処置を段階的に施すことで、〈一定の時間は使える状態〉に留めることは確実にできるだろう。これが多様なメディアの寿命を決定付ける基盤となる。

素材の寿命を決定するために考慮される多くの要素には、次のことが含まれる。

● アイテムの作成に使用された素材のクオリティ

● 記録の作成に使用されたテクノロジー、そして継続的なテクノロジーのニーズ

● 記録が受けた取り扱いと使用頻度

● 記録が収蔵されてきた物理的な編成方法と環境条件

複雑な層構造や急激な劣化傾向のある素材の使用と相まって、機材やテクノロジーへの依存は、音声記録が一般的に紙の簿冊など伝統的なメディアに比べて寿命が短いことを意味する。類似するメディアの寿命がいかに多様になり得るかを示すため、1970年代に作成されたアナログレコードを、たった5~10年前に作成された光学ディスクと比べてみよう。アナログレコードは一般的に物質的にも化学的にも安定したフォーマットで、今でも再生可能なことが多いが、光学ディスクはとっくに劣化しているか、あるいは新しいテクノロジーと互換性がなく、再生不能になっている。

音声記録を扱う場合の保存・保管・復元という用語は、文字の記録を扱う場合と微妙に異なる意味を帯びる。

コレクションに音声記録を持つ多くのアーカイブズにとって、〈保存〉という言葉はコピー作成と関連付けられることが多い。「そのアイテムは保存されていますか?」という質問は、ほぼ間違いなく「そのアイテムはコピー済みですか?」、あるいは「そのアイテムはデジタル化済みですか?」の意味で近頃は使われている。しかしながら音声記録の保存とは、収蔵から取り扱い・複製・アクセス提供まで広範な活動をカバーする。そのため、より大局的に定義しなくてはならない。

〈保管〉という用語は、オリジナル・アイテムの取り扱いや保護を意味することがある。つまりオリジナル・アイテムにモノ資料としての価値が与えられたことを意味し、SPレコードなどの歴史的なアナログ・フォーマットには相応しいだろう。しかし前述の通り、アイテムを適切な状態に保っても、長期的なコンテンツの残存は保証されない。

たとえオリジナルの録音物が損傷を受けたり劣化したりしても、保存の第一義は、できる限りオリジナルに近い満足のいく音声信号を獲得することにある。そのためにはオリジナル・アイテムに対するインスペクション、処方、手作業による補修が必要と考えられる。ほかにもコピー作成および損傷や劣化によって信号に入り込んだアーティファクト除去のための電気的処置が必要だ。なぜ〈きれいにする〉テクノロジーを適用するかというと、その目的は明らかにオリジナル信号のクオリティを再現するためだ。当然ながら、オリジナル信号のクオリティは客観的に見定めなければならない。補修またはリクラメーションとして知られているこの処置がオーディオの復元作業と交差するのは、まさにこの時点だ。

今日のテクノロジーの力で今日の標準においてオリジナルから得られる最良の結果と見なされるものを作成するのがオーディオの〈復元〉だ。テクノロジーによってオーディオを〈きれいにする〉処置に気づかれないようにすることは容易だが、〈きれいにする〉作業の影響がオリジナルの録音の完全性に及ぶこともある。つまりオリジナルの録音を〈改善する〉危険もはらんでいるのだ。復元によって取り除かれた好ましくないノイズは、経年による損傷や劣化の結果として生じたのかもしれないが、それだけとは限らない。部分的には、オリジナルの録音を作成する際に使用された技術や装置の影響で生じたものかもしれない。この分野で働くアーキビストやコンサバターは、こうした技術によって何を達成しようとしているのかを明確にせねばならない。録音物をきれいにするためのコピー作成なのか、あるいは、さらに良くするためのコピー作成なのかをはっきりさせた上で、方針を決定すべきだ(例えば、保存マスターなのか、アクセス用の録音物なのか、再放送または公開を求められるのか、といったこと)。多くの組織が2つのコピー、つまり変更のない/処置されていない保存マスターと、アクセスまたは商業目的で使うことのできる復元版コピーを作成しているようだ。

以上のことをまとめると次のようになる。

●〈保管〉の姿勢としては、これ以上望まないノイズをコピー作成段階で加えないことを目指すが、既にあるノイズを取り除くことは求めない。ここで目指すのは、オリジナルから改変されていない版の作成だ。

●〈復元〉の姿勢は、オリジナルの録音の際に聴こえた音に限りなく近い信号を生み出すために、その録音過程や、後の劣化から生まれた欠点を取り除いたり抑えたりする。

アーカイブズの業務に相応しいと見なされるのが〈保管〉の姿勢だ。コピー作成、つまり信号の保存がオリジナルの録音物の損傷、ましてや破壊につながるような場合は尚更だ。専門性の高いサウンドアーカイブで標準的に実践されているのは、均一で復元されていないコピーが作成されていることを確かめることだ。そうすれば、試聴用に望まれる量の処置を、取り返しのつかないまでに信号を変更することなく、もう1つのコピーに対して行うことができる。

他のアーカイブズの管理作業と同様に、オーディオの保存や復元作業のドキュメンテーションは注意深く行わねばならない。ドキュメンテーションがないと、検証不能になりかねないからだ。

[6]音声記録の劣化

音声記録が受ける損傷には主に次の3つがある。

●[物理的]ワープ・平面的な歪み・層間剥離・縮小・伸長・ひび・破損・傷・穴・埃などからくる汚れの影響など物理的な損傷。

●[化学的]環境や包装物との化学反応や内部の構成要素間の反応などから、キャリアの中のパーツが時を経て崩壊していく。キャリアの中には、ある層が他の層よりも早く分解してしまうものもある。

●[生物学的]生物学的な腐食として、カビ・虫・げっし類〔ネズミなど小動物〕・バクテリアといった生物の営みがメディアに外傷を与えることがある。

以前も指摘したように、現在のアーカイブズ機関に最もよく見受けられる音声記録メディアに、1/4インチのオープンリール、カセットテープ、CDがある。代表的な録音方式、そして方式ごとの保存方法を基礎からしっかり理解しておくと役に立つ。先へ進む前に、音声記録の4つの録音方式をおさらいし、保存に及ぼす影響について考察してみよう。

 

(第8回につづく)

Keeping Archives, 3rd

Copyright (c) The Australian Society of Archivists, 2008.

First published by The Australian Society of Archivists.

オーストラリア・アーキビスト協会からのご配慮に厚く御礼申し上げます。

 

翻訳者プロフィール

NPO法人映画保存協会

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映画保存協会(Film Preservation Society, FPS)は映画フィルムを文化財として保存する活動に取り組むNPO法人です。

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