『キーピング・アーカイブズ Keeping Archives』連載第8回

 

■音溝式録音:シリンダー式・ディスク式レコード〔※〕

※原著では[7]になるが、「4つの録音方式」の小見出しの1つとしてレベルを合わせるため変更

音溝を刻む方式の録音は、実際のフォーマットによって構造こそまちまちだが、すべからく機械的な損傷を受けやすい材質でできている。音溝式録音の天敵は主に2つある。まずは取り扱い時や再生時に起こる物理的な損傷、次に層間剥離だ。

物理的な損傷とは、音溝上のゴミ・傷・磨耗(例えば古い再生機の重い針で溝が削られてしまうような場合)などを指す。再生面には決して手を触れてはならない。アナログレコードを取り扱う職員には柔らかい綿手袋の着用を義務付け、保管の際は保護用ケースやジャケットに納めよう。ベース素材にもよるが、年月を経ると次第に脆くなり、コーティング材が剥がれたり、ベースが縮んだりすることがある。壊れやすいので、落とせば割れて粉々になってしまうだろう。

層間剥離は大半のアナログレコードに起こる。CDは材質の異なる複数の層から成り、劣化が起こると層と層の接着が剥がれることがある。アイテムを固定棚に保管して落下の危険を軽減すれば、記録を長持ちさせるためのとりあえずの措置にはなる。ディスク式レコードは適切なサポートを添えて縦置き保管しよう。LPレコードの場合、水平に保管したり、一定の角度に傾けたり、サポートなしで縦置き保管したりすると歪んでしまうことがある。ケースに入れておけば、保護力が高まる上に移動も簡単かつ安全になる。

取り扱い方法や複製技術も非常に重要なポイントとなる。再生中は損傷を受けやすいため、オリジナルの記録に合わせて正しく調整された機器を使用せねばならない。ワックスシリンダー〔鑞管〕、初期のSPレコード〔シュラック〕、即席ディスクといった記録の場合、経験豊かな専門家が複製作業を担当することが推奨される。

収蔵環境にも配慮しよう。とくに気温の上昇には注意すること。例えばLPレコードなどほぼすべての熱可塑性プラスチックは、熱を受けると歪む性質を持つ〔※〕。温湿度の制御は、SPレコードやシリンダー式レコードにも欠かせない。とりわけ、初期のシリンダー式レコードのワックスにはカビが発生しやすい。カビの成長を最小限におさえるため、涼しく乾燥した収蔵庫に保管しよう。

※Ward, Alan. A manual for sound archive administration. Gower Publishing, 1990. UK.

■テープ録音

前述の通り、音声記録に使用される磁気テープは主に2層—フィルムベース層と磁性層—から成る。磁気テープが直面するリスクは、テープに折り目がついたり裂けたりといった物理的な損傷や、素材の化学的な劣化、磁気信号の障害などだ。続いて磁気テープを構成する素材を見てみよう。

ベース層

テープのベース用として、セルロースアセテート、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエステルなど何種類かのプラスチックが使用されてきた。セルロースアセテートは1930年代から1960年代にかけて使用されていた素材で、高温度・高湿度による劣化の影響が顕著だ。この劣化が放つ独特な臭いから、この症状は〈ビネガーシンドローム〉と呼ばれている(18章 動的映像のフィルムの保存を参照のこと)。劣化が進むに連れてテープは脆くなり、縮み、再生困難になってしまう。

PVCは1944年から1972年にかけて、テープのベース素材として使用された。1950年代から次第にセルロースアセテートやPVCに取って代わったポリエステルが、1960年代以降は磁気テープのベースとして最も広く普及し、現在では磁気のオーディオテープ・ビデオテープ・データテープのあらゆるフォーマットに使用されている。ポリエステルは化学的な安定性に加え、再生機器に対する耐性にも優れ、その点で音声記録用の理想的なメディアといえる。主な欠点は伸縮することだ。伸びたり変形したりする性質によって再生が困難になるリスクを軽減するため、再生機器にかける際は正しいテンションを維持し、リールの巻きを一定に保とう。

磁気テープを繰り返し使用すると、摩擦によって有効寿命が短くなってしまう。テープが無事再生できるか否かは、機材の機能と十分なメンテナンスにかかっている。そのほか、巻き取り方が悪いとテープが損害を受けかねない。スプール上のテンションが緩かったり一定でなかったりすると、テープが突起し、その部分が損傷を受けやすくなる。使用後にテープを適切に巻き取れば、均一かつフラットで万全な状態を保てる(テープが再生可能な状態なら、テープのおしまいまで再生もしくは早送りをして、途中で止めることをしないで巻き返すこと)。

■磁性層

磁性層は一般的に、磁性顔料の粉末や磁性粒子を一緒にテープ上に塗布したものだ。化学的な劣化に対して最も脆弱なのが、この層を接着するために使われるバインダーだ。バインダーには大気中の湿気を吸収するものもあり、この湿気がバインダーの中で化学反応を引き起こす。分子構造上の化学的・物理的特性に変化をもたらすこの反応は、加水分解として知られている。加水分解によってテープはべとついた状態になる。この状態になると再生時に異音が生じ、べとついた磁性粉がオーディオ(およびビデオ)のヘッド上に付着してヘッドを詰まらせ、高域周波数帯を低減させてしまう。この反応は高い気温と相対湿度(RH)が原因で起こり、促進される。この変化の進行を遅らせたり和らげたりする処方もあるが、一般的にはオーディオ保存の専門教育を受けた技術者が必要となる。バインダーに起こる加水分解のリスクを軽減するため、テープを涼しくて乾燥した環境で保管することが推奨される。情報を確実に保存していくため、加水分解を起こしたテープには処置を施し、複製を作成する必要があるだろう。

ある磁性層から隣の層へオーディオ情報が移ってしまう症状〔※〕は、低品質なストックが抱えるもう一つの潜在的な問題で、〈プリントスルー〉と呼ばれる。プリントスルーによって、テープを再生する際に無音部に耳障りな〈プリエコー〉が引き起こされる。プリントスルー除去のため、何年にもわたって様々な方法が取られてきたが、その大半が専門技術者による処置を必要とする。

※ Eilers, Del A. Audio magnetic tape preservation and restoration. IASA Journal, no. 1. IASA, 1993.

■消磁-それはリスクか?

一般に考えられていることに反して、テープ素材の消磁はめったに起こるものではない。テープを強い磁場に近づけないことが推奨されてはいるが、磁気情報が時とともに完全に消滅してしまうことはほとんどない。記録を消すには、かなり強力な磁場が必要となる(ダイナミック型ヘッドフォン・マイク・ラウドスピーカのような装置は磁場を発生するので、テープはこれらのアイテムの近くで保管しないこと。しかしそれでも記録が完全に消えてしまうほどの磁場ではないようだ)。テープの録音消去の要因として第一に考えられるのは、再生中に録音ボタンを押してしまうことだろう。保管しているテープを意図せず消してしまうことのないように、管理下でのみ再生するか、もしくは録音機能が使えない機器で再生することが推奨される。テープの作成、取り扱い、保管、アクセスを適切に行っている限り、磁気の品質を損なうことはない。

生物学的な損傷、とりわけカビの発生は、あらゆる音声記録キャリアに影響を与える。高い相対湿度の環境において、カビは磁気テープの表面に発生するが、中には磁性層にまで入り込んだ実例もある。カビによってテープの再生が困難に、あるいは不可能になることもある。カビに侵されたアイテムは慎重に扱うべきだ(カビの吸引やカビとの接触から職員を守ろう)。カビの影響を受けたアイテムは、収蔵されているその他のコレクションから隔離すべきだ。相対湿度が上がらないよう涼しく乾燥した保管環境を用意しよう。

■光学ディスク

未だ議論を要するところだが、多様な光学ディスクの平均寿命は5年から100年のあいだのどこかにあると考えられる。光学ディスクは主に消費者市場に向けて開発されている。もっと長い製品寿命を主張するメーカーもあるが、使われている個々の素材の安定性だけではなく、製造法、どのような素材を使っているか、録音行程、ストレージといった要素が組み合わさってフォーマットの寿命に大きな影響を及ぼす。

したがって、CDを記録の長期保存に適したアーカイブズ仕様のフォーマットと見なすことはできない。しかし、もっと信頼できるデジタルストレージ方式がその条件を満たすまでのあいだ、暫定的な解決策としてCDの利用価値が下がることはない。一方で、保管用メディアとして使用する場合は、厳密な管理体制化におけるテスト、分析、そしてコレクション調査が必要となる。CDテスターが購入できないのであれば、他の保管メディアを選ぶべきだ。

一般的なルールとして、十分な検品を経た信頼できるブランドのCDだけを使用することが推奨される。CDの品質と生存能力は、生ディスクの選択・記録ドライブの選択・記録速度の選択といった要素に依存している。最善の結果を出すための唯一の方法は、この3つすべてのパラメータに対してテストを行うことだ。

ディスクと機器の適合性(あるいは不適合性)もまた問題だ。不適合性が生じるポイントは、生ディスク、コンピュータ、ソフトウェア、ディスクバーナー、ディスクリーダーなど数多い。生ディスクとコンピュータ間の相互作用、あるいは記録されたディスクとCDリーダー間の相互作用には、ディスクのパフォーマンスを貧弱なものにしたり、情報の回復が不可能になったりと、様々な状況が想定され得る。よくある事例としては、書き換え可能なディスクに書き込めなかったり、時にはディスクドライブで読み出しができなかったりする。

録音フォーマットの再生のために必要な機器を識別/同定しよう。例えば古いCDの再生機は、CDのオーディオ録音みに対応していて、デジタルファイル(MP3)は再生できないかもしれない。

CDの長期使用能力に影響を及ぼす要素としては、以下のものが挙げられる。

●[物理的損傷]光学ディスクは物理的損傷に対して脆弱なため、ディスク表面への損傷を避けることが重要だ。ポリカーボネート層の傷はレーザー光線を邪魔するし、保護層の傷は反射層に損傷を与えかねない(酸化のリスクが高まることもある)。

●[酸化]金を除くすべての反射層は、酸化に対して脆弱だ。酸化は湿気に晒されると引き起こされる。保護層は、湿気の浸透からディスクを保護するために重要な役割を果たしている。酸化した層の影響でディスクが読み出し不可能になることがある。

●[染料の安定性]記録可能なCDには、シアニン・フタロシアニン・アゾという3種類の染料が使われている。フタロシアニンが最も安定性が高いと考えられるが、何れの染料も光の影響を受けやすい。太陽光に晒すと、たった数週間で記録可能ディスクが読み出し不可能となったという試験結果もあるため、直射日光の当たらないところで保管しよう。

一般的に、ポリカーボネート層は安定していて、劣化の症状が現れる例は少ない。

■データファイル

データファイルの場合、記録へアクセスするためにはハードウェアとソフトウェアを正しく組み合わせる必要がある。フォーマットのアクセス可能性は技術変化の影響を受けやすい。ハードウェアもソフトウェアも、時と共に移り行くものだ。市場主導のイノベーションとは、要するに、メーカーが新しい方式、ソフトウェア・アプリケーション、そしてテクノロジーを短いサイクルで生み出していくことを意味する。

一般的に、保存を目的としたアーカイブズ仕様のデータファイルには次のようなことが求められる。

[オープン・スタンダード・フォーマット]データファイルの仕様がパブリックドメインとして作成されることが望ましい

[十分に確立されたフォーマット]広範に使用されているファイルのフォーマットは、広域で長期的サポートが続くことが見込まれる

ファイルフォーマットは比較的安定しているべきで、コンスタントに変更されるべきではない(新しいバージョンは以前のバージョンとの互換性を持つべきだ)

[データ欠損なし]できれば非圧縮、もし必要ならロスレス圧縮

高いサンプリングレート(IASA TC-04は96KHzを推奨、最低でも48KHz)

高いビットレート(IASA TC-04は24bitを推奨)

メタデータがサポートされていること

ファイルの検証

● ファイルの品質チェック(〈修正不可能〉なエラーが無いことと、修正可能なエラーの数を極力少なくすること)

録音物が一度デジタルファイルに変換されれば、それがボーンデジタルだろうが、複製過程で生じたものだろうが、いかなる意図や目的があろうとデジタル記録に変わりはなく、一般的なデジタル記録と同様の管理手法が求められる。必要とされるコンテクストのすべてが離れ離れにならないようにするための付加的な記述要素があり、ファイルサイズは相当な大きさになってしまう。しかし本質的に、この形態の記録の管理上の問題は、デジタル記録の問題と一致する。デジタル記録に関係する多くの問題は、15章(デジタル・レコードキーピング)で取り上げている。

正確さが検証されていないデータファイルは、危機に晒されていると見なすべきだ。

デジタルアーカイブ活動において問題となっているのは、密度の高い情報ストレージの増加傾向だ。例えば1枚のDVDにカセットテープ10本分のデータファイルがひとまとめに入っているとしよう。この資料のマイグレーションを行う際に、1枚のDVDに対する損傷のリスクは、オリジナルの個々のカセットテープに対する損傷のリスクよりも大きくなってしまう。データファイルとそのキャリアからは、いつデータが失われてもおかしくない。だからこそ、バックアップとして少なくとも一つのコピー作成は欠かせない。そして、別々の場所で保管することが望ましい。

 

(第9回につづく)

Keeping Archives, 3rd

Copyright (c) The Australian Society of Archivists, 2008.

First published by The Australian Society of Archivists.

オーストラリア・アーキビスト協会からのご配慮に厚く御礼申し上げます。

 

翻訳者プロフィール

NPO法人映画保存協会

http://www.filmpres.org/

映画保存協会(Film Preservation Society, FPS)は映画フィルムを文化財として保存する活動に取り組むNPO法人です。

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