『キーピング・アーカイブズ Keeping Archives』連載第10回

 

第18章|動的映像|moving images

本章の概要

動的映像は多くの場合、アーカイブズのコレクションの中でとりわけ高い価値を有しているにも関わらず、録音物と同じように、異質で扱いにくいものと見なされている。動的映像が記録される物理的なキャリアは確かに脆弱だ。フォーマットは実に多様で、専門家でもない限り馴染みが薄い。

本章は、コレクションに含まれ得る動的映像を同定/識別し、理解する際の助けとなるだろう。評価・管理・保存・収蔵にまつわる特定の課題にも言及する。
視聴覚記録全般に当てはまる一般原則を概括する第17章(音声記録)も、本章と併せてお読みいただきたい。

1. はじめに〔※〕

欧米にフィルムアーカイブ機関が出現しはじめたのと同時期の1937年、オーストラリア国立図書館の一部門として「National Historical Film and Speaking Record Library」が設立され、国内で動的映像の収集が始まった。この新たな試みは、「過去と現在の歴史的関心事や社会の発展に光を当てる映画、人類学的な映像を含む限られた数の科学映画や産業映画、オーストラリアにおける映画製作の発展を明らかにする映画」の収集を目指すものだった。社会や文化を映す鏡であり、社会や文化の証としての役割もこれまでに増して担う動的映像は、我々の記録遺産の一環をなしている。

※Jeffrey, Brian 1973, Walkabout, July, pp 40-41, reprinted in Bertrand, I (ed.) 1989, Cinema in Australia A Documentary History, UNSW Press, NSW, pp 197-9.

物質として脆弱なキャリアに時間ベースで記録されることから、動的映像と音声記録には共通点が多い。例えば、両者には同じ記録メディアが使用されることも度々ある。視聴覚記録の概略紹介にはじまる第17章(音声記録)は、動的映像にも当てはまる幅広い領域を扱っている。こうしたメディアをアーカイブズとして扱うための概論を包括的に掴むため、両章は併せて読まれることを意図して書かれている。

[1]動的映像はその他の記録とどう違うのか?〔※〕

デジタル記録がそうであるように、動的映像を取り扱う上での原則もまた、伝統的な形態のアーカイブズと変わらない。動的映像の諸フォーマットのためにアーカイブズの複雑さは増すが、アーカイブズの記録としてこうしたフォーマットに関わる上で焦点となるのは、依然として、記録を本来の文脈に当てはめるという主要命題なのだ。

※De Lusenet, Lola 2006, ‘Moving With the Times in Search of Permanence’ in Preservation Management for Libraries, Archives and Museums, Gorman GE & Sydney SJ (eds.), Facet, London pp 78-79.

動的映像の異質性を議論する前に、昨今ますます身近な存在のデジタル記録との関係性を考えてみよう。注目されつつあるのは類似点のほうだ。

以下に動的映像とデジタル記録に共通する性質を挙げる。

●キャプチャ〔形あるものに記録すること〕とリプレイ〔再生〕の技術に依存している。

●使用可能な記録を提示するメタデータに依存している。

●フォーマットの旧式化。

●キャリアから分離できるという特質(映画フィルムはこの点で度々物議を醸す)。

音声や映像の異質性は、第17章(音声記録)の視聴覚記録の導入部が詳しく扱っているが、関連する要点をもう一度ここで押さえておこう。フォーマットには専門家でもない限り馴染みが薄い。制作方法は実に多様で、使用されるフォーマットは幅広い。多くの構成物が寄り集まって一つの成果物が形作られることも珍しくない。フィルムもビデオも、情報をキャプチャしてリプレイする技術に依存している。

視聴覚記録は潜在的にかなりの文化的・金銭的価値を有している。とりわけ動的映像記録はその傾向が強い。過去が動いて喋ることの意義を伝える能力は、動的映像の目に見えない付加価値だ。この価値は、動的映像の扱いに対する主な利害関係者たちの態度を感情的なものにしがちだ。加えて、アーカイブズとしての動的映像の扱い方を学ぶ際に得られる充足感の一端ともなる。要するに、動的映像には多様な立場の人々が深い思い入れを持つ傾向にあるのだ。

■テクノロジーの変化〔※〕

感光性のある面体と時間との関係において、広い意味で、あらゆる動的映像の根本にあるのが写真だ。動的映像のテクノロジーには奇妙なパラドックスがある。技術革新こそが電化された動的映像の特徴だが、1896年の登場以来、映画フィルム自体はほとんど変化していない。依然として純粋に機械的・写真的なプロセスだ。

※Marlow Eugene and Secunda Eugene 1991, Shifting Time and Space, The Story of Videotape, Praeger Publishers, New York. Table of video formats and introduction dates pp 18-19.

一方で、技術革新のスピードが加速するばかりのビデオは、旧式化が深刻な問題となっている。

■視聴覚記録が1対1のことは滅多にない

デジタル時代になる前、フィルムやビデオの制作は複製を繰り返して最終的な成果物に至ったことから、大抵の場合、たくさんの部分が集まって全体が構成されてきた。デジタル制作の連鎖の中でも似たような反復過程は起こるが、デジタル制作における版違いや〈枝分かれ〉は、物理的な実体というよりファイルとして存在することのほうが多い。動的映像の制作は音声を伴う場合がほとんどで、そうなると、最終的な作品を形作る素材の量はさらに増えることになる。

■同一の元素材から作成された無数の最終版の存在

宣伝用として、対象となる視聴者に合わせて長さの異なる3~4種類のCMが制作されることがよくある。学校教育用や社員教育用の映画では、使用言語の異なる団体や視聴者によって編集内容を変えることも珍しくない。政治的理由による徹底的な再編集も起こり得る。コミュニティ・グループを紹介する政府の広報映画など、度々そのようなことがある。

■時間を要するバリエーションの処理

地味ながら重要な複製物ごとの違いを見分けるには、時間をかけて詳しく検査する必要が生じるだろう。リールに巻かれたフィルムのフレームは直に一つ一つ目視することもできるが、ビデオのように〈パフォーマンスをさせる〉のはリアルタイムの作業になる。


[2]動的映像コレクションの考え方

動的映像の歴史は大衆文化や大量生産と深く結ばれ、その技術は民間企業の求めに応じて発展し続ける。しかしながら、あらゆる形態のコミュニケーション技術と同じく、社会における動的映像の使途は、それを発展させた商業的な要求よりも常に幅広いものだった。

このことから、動的映像を二つの大きなカテゴリーに分けて考えることができるだろう。映画産業やテレビ業界のための作品は、チケットを購入する、あるいは広告を目にする聴衆に向けられた商業的な存在だ。既に明らかなように、我々が鑑賞する映画や放送番組は、それ自体が文化的、社会学的、そして社会史的に重要なテキストになった。アーカイブズとして、通常こうした動的映像を収集するのは専門的な視聴覚アーカイブ機関だ。この広範なカテゴリーを記述する用語で一致をみたものはないが、ここでは〈商業作品 industry productions〉と表現しておく。

二つ目の広大なカテゴリーは、動的映像技術を利用して、動き、そして喋る記録として伝えるのに最も適した情報をキャプチャしたり発信したりする存在だ。軍事訓練用の映画、科学実験の映画、監視カメラの映像、講演や催事の記録、ホームムービー、慣習の記録……これらすべては、リアルタイムにその場で視覚記録を作成するという本質的な能力によって情報を伝え、書かれた言葉からは得られない証拠を提示する事例だ。この種の動的映像記録を〈情報系動的映像 informational moving images〉とする。

■棚には何がある?

大抵のアーカイブズ機関は、上記の二つ目のカテゴリーに当てはまる記録、つまり情報系動的映像を受け入れることが多いと考えられる。その内容は、例えば著名人のホームムービーなど、催事、人物、場所の記録といったものだ。一般的なアーカイブズ機関には、その団体や個人に関係するテレビ番組のビデオテープ群など、それぞれの文脈において重要な放送番組の録画、あるいはそのコピーを購入したようなものが多いだろう。他機関の所有する作品を新たな作品制作のための素材として使ったストック・フッテージやそのコピーもあるかもしれない。

アーカイブズに完成された映画フィルム作品があるとすれば、多いのは16mmの教育映画や、業務や業績を広報する企業ビデオのようなものだろう。

先を見越した評価選別および取得の戦略が用意されていない限り、アーカイブズにあらゆるコンポーネントの現物や、極めて重要な映画作品のオリジナルが保持されていることは滅多にない。もっとも、その可能性がゼロというわけでもない。

■コンポーネント(構成要素)とは何か?

完成された作品は、エレメントやコンポーネントとして知られる多くの映像素材から構成されることがある。例えば1本のビデオ作品が、映画フィルムのカメラ・ネガ、ネガのビデオコピー、あるいは〈ラッシュ〉と呼ばれるもの、現地録音テープ、最終的な編集版のサブマスター、最終版のマスターテープなどから成り(こうした専門用語の指すところは、本章の中で明らかにしていく)、最終的な作品において一つ一つの要素がそれぞれの役割を果たす。とりわけ映画フィルムは、全体を形作るこれらの部分が最終的な作品を保存する上でも重要になる。それぞれが判断基準の新たな段階に影響し、あるいは最終版の安全を確保する〈保険〉になるからだ。

■専門家の指示を仰ぐ頃合いを知る

専門家の助けが必要になる頃合いがある。唯一無二の、明らかに価値が高いと思われる作品や、劣化の進行が著しい作品を発見したとしよう。こうした作品のためには、助言を与えてくれる、あるいはオリジナルのキャリアを財産として保存してくれる視聴覚アーカイブを探すことが最善の解決策だ。肝心なのは、この決断をどこで下すかだ。本当に唯一無二の作品で、明らかに高い価値があるなら、専門家の助けを求めること、オリジナルの所蔵品を移管することが現実的な解決策となる。

■視聴覚アーカイブとの協働〔※〕

フィルムアーカイブ設立運動は1930年代に起こったが、視聴覚アーカイブ活動に規範が生まれたのはまだ最近のことだ。オーストラリアにおける専門機関は唯一、国立フィルム&サウンドアーカイブ(NFSA)だが、専門的なコレクションを有するアーカイブズ機関や図書館は数多い。「The Register of Audiovisual Collections」(NFSA 2007年)によると、国内に存在するあらゆるコレクションの中に視聴覚関連資料が散見されることがわかる。

※Usai, Paolo Cherchi 2006, ‘A Charter of Curatorial Values’, NFSA Journal, Journal of the National Film and Sound Archive, Australia, Vol. 1, No. 1.

多くのフィルムアーカイブ機関が現物のフィルムを重要視し、コレクションに対して博物館的な実践を適用している。そして、オリジナルの収蔵品を保存し、できる限りオリジナルの映画体験に近づけて再現することを目指している。こうした実践のあり方は、作品を別のメディアで入手可能にすることを否定しているわけではないが、あくまで作品をオリジナルの経験に限りなく近い形態で提示することに重きを置いている。したがって、情報系動的映像のコレクションを扱うトータルアーカイブズとは、目指すものが完全に異なる。

■倫理に関する覚え書きと動的映像

動的映像には動的映像特有の倫理的な課題がある。アクセス用の素材が、当初その記録が作成され、上映されたときと異なる場合は、研究者や閲覧者がオリジナルに関する情報を入手できるようにすることが重要だ。

保存にも倫理的な問題が多数生じる。ドキュメンテーションがなければ、処置を施すことと介入することの違いを見抜くのはかなり難しいだろう。将来、何らかの処置を施す際の説明責任および互換性は、ドキュメンテーションの痕跡にかかっている。

現代の基準に則った〈改善〉は、デジタル技術によって容易に成し遂げられる。これもまた、ドキュメンテーションなしには直ちに同定/識別、あるいは解明できないだろう。保存の原則としては、劣化したオリジナルと〈復元〉版、つまり、劣化した記録をオリジナルの状態に戻す試みが為された版とは、明確に区別する必要がある。復元の際、改変されていないオリジナルは、そのままの状態で維持されねばならない。


[3]コミュニティへの配慮〔※〕

慣習や伝統文化の表象を記録する際には、特定のコミュニティへの気配りを意識した方針が必要となる。これは、多くの社会集団等を描写する記録に当てはまることで、オーストラリアの現状では特に先住民のコミュニティに関連がある。先住民のコミュニティについての動的映像記録は、比較的小規模ながら、極めて重要なオーストラリア映画史の一部を成しているのだ。

※Nakata, M & Langton M 2005 (eds.), Australian Indigenous Knowledge and Libraries, Australian Academic & Research Libraries, Vol 36, No. 2, Canberra. Wendlend, Wend 2004, ‘Cultural Heritage Archives and Databases, Intellectual Property and the Protection of Traditional Cultural Expressions’, IASA Journal, No. 22, Jan pp 51-64, p 60 intellectual property protocols for traditional cultural expressions. Laszlo, Krisztina 2006, ‘Ethnographic Archival Records and Cultural Property’, Archivaria, No. 61, Spring pp 299.

1990年代以降のオーストラリアでは、先住民コミュニティの図書館やアーカイブズにおいて、文化的影響を検討することが意識的に推進されてきた。1995年には具体的に「Aboriginal and Torres Strait Islander protocols for libraries, archives and information services」という議定書が発行された。この議定書は、コレクション管理とアクセス提供の点で、図書館やアーカイブズが先住民〔アボリジニとトレス諸島民〕のコミュニティと相互協力をする方法について述べている。

世界知的所有権機関(WIPO ワイポ)は、伝統文化の表象が他者に利用される際、コミュニティが直面する諸問題を定義した。こうした問題は、承認されていない不適切な使途、伝統に基づいた創作物・発明品の見過ごしや私有化などから起こる。人格権の要素と著作権には繋がりがあり、記録の作成者は著作権者として不可分の利益を享受している。

カナダのアーキビスト、クリスティーナ・ラズロも、人格権の重要性を強調している(2006年)。法的な所有権がコミュニティの外に存在する場合でも、内容に関する人格権は残される。ラズロはこれに限らず、慎重に扱うべき文化的な記録の問題を具体化した。その提案に従えば、アーカイブズ機関において慎重に扱うべき文化的な資料は、個人のプライバシーや機密保持と同じレベルで考慮されるべきだ。そして、民族や人種の表象のあり方が時代遅れだからといって、資料に制約を加えるべきではない。ただし、神聖かつ儀式的な行為の描写は、資料に制約を加える正当な理由になる。

ラズロが指摘するのは、今日の常識からすれば倫理にかなわない状況で作成された資料には、何らかの暗示があるという点だ。一人でも多くの人々に資料を入手可能にするというアーカイブズの権限に関して、その記録に関わるコミュニティに与える影響に配慮しながらバランスを取ることの必要性を、ラズロは確認している。

 

(第11回につづく)

Keeping Archives, 3rd

Copyright (c) The Australian Society of Archivists, 2008.

First published by The Australian Society of Archivists.

オーストラリア・アーキビスト協会からのご配慮に厚く御礼申し上げます。

 

翻訳者プロフィール

NPO法人映画保存協会

http://www.filmpres.org/

映画保存協会(Film Preservation Society, FPS)は映画フィルムを文化財として保存する活動に取り組むNPO法人です。

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