『キーピング・アーカイブズ Keeping Archives』連載第15回

 

3. 動的映像メディアの劣化

このセクションは多様な動的映像フォーマットのキャリアに起こる劣化の原因と結果について考える。特に次の3つに注目しよう。

●映画フィルム

●ビデオテープ

●光学ディスク

[1]映画フィルム

映画フィルムは帯状の透明なプラスチック素材のベースから成り、その素材にはナイトレート、アセテート、ポリエステルという違いがある。ゼラチン質のバインダーによって、このベースに乳剤層がはり付いている。乳剤には感光性の物質が含まれ、ここに物理的な画像が生成される。いかなる映画フィルムも経年劣化からは逃れられない。

劣化の要因はベース素材にある。オーストラリアにおいて、1950年より前に製造されたネガフィルムのベースには、ナイトレートが使用されていた。ナイトレートとは、本質的に可燃性だ。1980年代にこの特性が問題になると、アーカイブズ機関はナイトレート・ベースのフィルムを大量に、より安定したベースのフィルムに複製し、オリジナルを廃棄した。ナイトレートのための適切な収蔵戦略が発展したのは、それより後のことだった。我々の保存原則がオリジナルを残すことを唱っているように、本来フィルムは廃棄されるべきではない。とはいえ、劣化している状態のフィルムをコレクションの中に残すわけにもいかない。1980年代にナイトレートの不燃化が推進されたため、今ではナイトレートがコレクションに含まれることは少ない。オーストラリアでの使用はほぼ35mmに限定され、大抵はフィルムのエッジにある〈Kodak Nitrate Film〉という印字によって識別できる。もっとも、この印字もオリジナル・フィルムからアセテートの複製にそのまま転写されることがある。フィルムがナイトレートかどうかを確かめる方法は他にもあるが、そのような場合は視聴覚の専門家に頼むのが最善策だ。

アセテートフィルム、または〈セイフティー〉フィルムとして知られるフィルムは、可燃性のナイトレートの危険性を克服するために開発された。アセテートフィルムには、褪色とビネガーシンドロームという二つの主要な保存上の問題がある。

ビネガーシンドロームには、酢酸の生成と発散が関与している。アセテートベースが劣化すると、特徴的なビネガー臭が発せられる。ベースが柔らかくなり、巻かれたフィルムの層がくっついてしまう場合も多い。これはブロッキングと呼ばれる。化学反応が起こすビネガーシンドロームは自己触媒作用で、劣化に伴って発せられる揮発性酸が反応を促進する。言い換えれば、自らに餌を与えるようにコレクションの中に広まり、アセテートを含むその他のフィルムの劣化速度を加速させるのだ。揮発性酸の生成がフィルム劣化の主要因と考えられるため、まだ被害を受けていないフィルムを隔離することも欠かせない。空調システムに酢酸フィルタが備わっていることが前提になるが、フィルムの巻きをゆるめて通気性の高いフィルム缶に入れることが推奨される。通気を良くすれば酸が分散する。そして、低温環境で換気を十分にすれば、収蔵室内から酸を継続的に追い出し、劣化速度を抑えることができる。ビネガーシンドロームの進行を遅らせる最善策としては、室温を2℃またはそれ以下の低温、湿度を30~35%に保つことが推奨される。

ビネガーシンドロームの検査は、いかなる規模のアーカイブズでも実際に実行できる。イメージ・パーマネンス・インスティチュートは、気軽に使用できる酢酸検知用の紙片(A-Dストリップス)を開発した。この紙片をフィルム缶の中に入れて、24時間後に結果を確認することで、アセテートベースに影響を及ぼす可能性のあるビネガーシンドロームの進行レベルを推測できる。

ビネガーシンドロームを発症した素材を長期保存するための唯一の選択肢は、コピー作成を優先することだ。ビネガーシンドロームによって起こる主な副作用には、目に見える収縮がある。縮みすぎて複製できなくなったフィルムには、高価だがデジタル化という選択肢も残される。

■〈保存巻き〉とは何か?

〈保存巻き〉とは、サイズの大きいコア(3インチ)の上に、ほどけない程度のテンションでフィルムを巻くことを指す。きつく巻きつけないことで内部の酢酸を逃がしつつ、フィルムの反りを防ぐことができる。また、フィルムの周囲の通気を良くすることで、フィルムの反りを防ぐこともできる。コア巻きのフィルムは必ず缶に入れて保護することが肝要だ。巻きの緩いフィルムを缶から出す際には、コアが抜けないように垂直に支えて持つ必要がある。

現在フィルム製造に使用されているポリエステル・ベースは、最良の環境に保存すればアセテートフィルムよりずっと長持ちする。上映用プリントに使用されているポリエステルは、前述のように耐久率に優れ、裂けることがないが、機材の機構には悪影響を与える。そのため、撮影用に使用されることはない。

映画フィルムの劣化
化学的分解
劣化の記述
●初期のプラスチックは分解されやすい。
●ナイトレートフィルムは水分に反応し、硝酸を発し、最終的には完全に劣化する。
●ビネガーシンドローム:アセテートフィルムは水分に反応し、酢酸を発する。自己破壊的なプロセスによって酢酸が発生すればするほど劣化の進行が速まり、最終的には完全に崩壊してしまう。
●ビネガーシンドロームは激しい褪色や収縮を引き起こす。

何をすべきか
●化学的分解は活発な劣化だ。これを甘く見ると、全体が崩壊してしまう。
●酸を検出する紙片を使用する概要調査によって、劣化の進行が明らかになる。劣化の進行する速度をモニタしよう。
●調査の際は収縮度を測定する。その素材のコピーの可否や、コピーの品質にも大きく影響するので、収縮度をモニタしよう。
●収蔵:得られる限り最良の収蔵環境を用意して時間を稼ぐこと。
●収蔵の有益性が最大限になるようアイテムを準備しよう。フィルムをゆるい〈保存巻き〉にして、通気の良い缶に入れよう。可能なら、空調機の中で酢酸の発生を抑える炭素系の清掃フィルタを使おう。
●コピーの優先順位付け:コンテンツや劣化状態を考慮に入れて、記録の中からコピーの優先順位を決める。
●まだ影響を受けていない素材のための回避策を練ろう。影響を受けている素材からは隔離し、状態を概要調査すること。状態の良いアイテムのほうがコピーは容易なので、可能なら劣化が始まる前にコピーを済ませよう。
●OH&S〔労働安全衛生規則〕:ビネガーシンドロームに感染した素材の扱いには十分注意しよう。フィルム缶を本体から取り出し、可能ならアイテムを〈ガス抜き〉するか、あるいは、扱う前に換気を良くする。ビネガーシンドロームに感染したフィルムが健康に害を及ぼすという確証はないが、頭痛や気道炎症(咳や鼻水)を訴える声もある。

機械的破損
劣化の記述
●機材による損傷
●取り扱いを誤ることによって傷や汚れがつき、画像に〈パラ〉が現れる。
●裂けると修復せねばならないが、それが再生時のピントあわせに影響する and/or 再生不能になる。
●巻き方が悪いとフィルムはリールによって損傷を受ける(表面がガタガタの場合など)。
●アイテムを落とすなど、送付時の扱いを誤ると傷や痕跡が残る。

何をすべきか
●受動的な劣化だが元に戻せない。跡が残ったら、目立たなくすることはできても取り除くことはできない。
●安全に扱う訓練をしよう:画像領域に手を触れないこと。フィルムからコアが抜けるのを防ぐため、コア巻きのフィルムは缶の蓋を使って支えよう。
●機材にメンテナンスを施し、機材の正しい使い方を訓練によって身に付けよう。
●業務の流れを熟考し、それに従うことが機械的損傷の発生を最小限に留めるための最善策だ。

写真光学的損傷
劣化の記述
●褪色
●銀の劣化
●何らかのフィルム・コーティングによる悪影響
●カビ(生物学的劣化)

何をすべきか

●写真的な劣化は活発で、見て見ぬ振りをすると最終的に最悪の損失につながる。
●褪色:カラーフィルムはマゼンタからモノクロに移っていく。通常はビネガーシンドロームを伴う。実現可能な氷点下の温度にまで下げることが最善の手当てになる。
●銀の劣化によって画像の濃度に変化が起こる。画像が褪せたら、本来意図された状態には二度と戻せない。空気中の汚染物質がこれを促進するため、収蔵環境の空調でこれを防げる。
●フィルムプリントに使用されたPermanewなど何らかのコーティングや潤滑油は、目で見てもわからないが、超音波式フィルム洗浄液のような溶剤に触れることで取り返しのつかない損傷を引き起こすことがある。これが他の劣化プロセスを促進することによって、活発な劣化も起こり得る。あらゆるフィルムをテストすること。
●カビが乳剤を永久に変形させてしまうことがあるので、フィルム・インスペクションを行おう。OH&Sのリスクを持つカビもあるので十分注意して扱うこと。特殊フィルタを備えた掃除機、溶剤(エタノールやペルクロロエチレン)を用いたクリーニングを、できれば実験用フードの下で行う。専門家の助言と手助けが求められる。

技術の旧式化
劣化の記述
●ダブル8や9.5mmなど、初期の形状に特有の問題だ。再生に必要な機材は調達が難しくなり、閲覧やコピー作成の選択肢に影響が及んでいる。

何をすべきか
●コピー作成の計画を立てる。映画フィルムの技術革新はビデオに比べて少ないので、ほとんどの形状をメーカーから調達できる。オーストラリア国内では現在でも、9.5mmや8mmのコピーが作成できる。

【表18.3:映画フィルムの劣化】

 

(第16回につづく)

Keeping Archives, 3rd

Copyright (c) The Australian Society of Archivists, 2008.

First published by The Australian Society of Archivists.

オーストラリア・アーキビスト協会からのご配慮に厚く御礼申し上げます。

 

翻訳者プロフィール

NPO法人映画保存協会

http://www.filmpres.org/

映画保存協会(Film Preservation Society, FPS)は映画フィルムを文化財として保存する活動に取り組むNPO法人です。

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