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「正」と「偽」。古来、問われ続けてきた二項対立のかたちである。しかし、「偽」はその二項対立の一極としてのみ存在するものではない。偽書や偽文書などに見られる歴史像・世界像の生成には、その時代と環境との関係性を組み替え、再定立するダイナミズムを見出すことが出来る。「偽」なるものの捉える地平は、いかなる拡がりを持っているのだろうか。本書では、特に日本・中国・韓国・ヴェトナムなど漢字文化圏における神仏に関わる文言に着目し、「偽」なるものが持つ力と可能性を論じる。
千本英史(ちもと・ひでし)奈良女子大学教授。専門は中古中世国文学。説話、物語文学など。著書に『験記文学の研究』(勉誠出版、1999年)、編著書に『日本古典偽書叢刊』全3巻(現代思想新社、2004~2005年)、論文に「新聞「日本」と南方熊楠―附・全集未収録論考「神前女子不脱帽一件」」(『南方熊楠とアジア』アジア遊学144、2011年8月)、「『今昔物語集』の「未来」」(『東アジアの今昔物語集―翻訳・変成・予言』勉誠出版、2012年)などがある。