歴史とは如何に描かれるのか―
本書は、家の栄誉や当主の事績を後世に記し残すという意図、およびその意図のもと成立した史料群を「家伝」と定義し、その検討を通して、中世東国の武士団結城氏と、結城氏をとりまく周辺諸氏との相互関係の時代的推移を考察したものである。従来国文学の分野において「後期軍記」と分類される、中世後期から近世にかけての家記・家譜を含む史料群は、その史実的信憑性から顧みられることが少なかった。しかし「家伝」という視座からこれらの史料をとらえ直すと、当時の社会における受容とその意義を史料機能論として語ることが可能となる。結城合戦という一族断絶の危機に見舞われる戦乱を起こした結城氏と、同族の小山氏・長沼氏、さらに結城氏家臣水谷氏・多賀谷氏などに注目して、「家伝」の共有、拡散などの実態を解明する。