人物史から映し出される東アジアの多元性
最後の遣唐使帰国直後、太皇太后橘嘉智子の命により商船に乗り渡唐した日本僧、恵蕚。
彼は中国四大聖山の一つ「普陀山」を開基し、また、在唐新羅人や唐人との親交を深めながら、五臺山を度々訪れ、唐から初めて禅僧を招聘し、また、平安朝文学に大きな影響を与えた『白氏文集』の将来にも大きな役割を果たすなど、東アジア交流に大きな足跡を残した人物である。
本書では、日中に分散し全貌のつかみづらかった恵蕚に関する史料三十六種を集成、また、恵蕚と恵蕚を取り巻く唐・新羅の人々を追うことで多元的で広がりのある歴史世界を描き出す論考三本を収載。東アジアの政治史、仏教史、文化史、海域史などの諸分野に新たな研究素材と視点を提供する。