「歴史」か「物語」か?
武士団の世界観、東国ならではの恋物語、縁起や唱導の言葉の引用、頼朝と曽我兄弟の弟・五郎との熾烈な言葉の応酬などの言語的実験…
中世東国のなんたるかを如実に体現した範例的・普遍的テクストであると言える真名本『曽我物語』。
そしてなによりも「歴史テクスト」としての自らを押し出したのが真名本という物語ではないのか。
一方、真名本と同じ事件を取材しながらも、まったくの反対方向を志向している『吾妻鏡』。
幕府の公的年代記であるがゆえに『曽我物語』よりも、史料的価値が高く見積もられている『吾妻鏡』であるが、果たしてその優位性は正しいのか。歴史テクストを歴史たらしめる言葉の構造とは何なのか。
真名本『曽我物語』と『吾妻鏡』という二つの作品の関係論、また『金槐和歌集』や『新古今和歌集』、『神道集』、『太平記』などさまざまなテクストを比較することにより、
鎌倉時代における文学の言語空間について考察する。