勅撰和歌集は、いかなる思想基盤の下に編纂されたのか
日本史上最初の勅撰和歌集である『古今和歌集』は、和歌文学に公的地位を与え、漢風謳歌時代の終焉と国風文化の確立を宣言したものであり、後世に王朝和歌の頂点と仰がれ、国民的美意識や思考様式の本源とされてきた。また、『古今集』により創始された和歌勅撰集の伝統も永く守られ、二十一代集まで延々と続けられた。
『古今集』がこうした規範性や永続性をもち得たのはなぜだろうか。また、日本で和歌の勅撰集が編まれつづけるのはなぜだろうか。
古代東アジア儒教文化圏における国家統治・人心調和の思想基盤である「礼楽思想」の観点より、『古今集』真名・仮名両序を精緻に検証することで、「歌」そして「勅撰」の思想を全面的かつ体系的に捉え直し、歴史的文脈の上に勅撰集編纂の営みを定位する。