わが国最古の写本であり、古写経史上稀覯の遺品
『浄名玄論』は、写本・八巻で構成。中国の六朝末から初唐にかけて三論宗の教学を大成した嘉祥大師吉蔵による『維摩経』の綱要書。巻第四と巻第六の巻末に、それぞれ「慶雲参年十二月伍日記」「慶雲三年十二月八日記」(慶雲三年=706年)という書写奥書を有し、書写年代が明らかな本邦現存最古の仏典・書跡である。
なお、全体八巻のうち、巻第一は平安時代、巻第二と巻第五は鎌倉時代の補写本であり、巻第七と巻第八を除いた他の三巻も巻首が補写されている。本文は六朝時代の趣をたたえた筆致で書写され、また、各所に平安時代初期と推定される白点が施されており、訓点資料として国語学上重要な資料となっている。元来、奈良・東大寺に伝来したが、初代の京都国立博物館館長を務めた神田喜一郎の手を経て、国有に帰した。