歴史叙述という営為の機能を探る
鎌倉時代末期から南北朝期という変革の時代に、天皇・武家などの世俗権力と積極的に関わり、自らの法流を護持し、後世へと伝授した真言僧栄海。
その政治的・宗教的営為を支える背景には、連綿と伝えられる「知」の宝庫たる文庫があった。
文庫に伝持される聖教などの各種史料に残された栄海の活動、そしてそれらと密接な関係を持つ著述・編纂という営為を総体として捉え、時代と社会の中に位置づけなおすことにより、当時の歴史認識と歴史を物語ることの意味を明らかにする。
文学・歴史学・文化史という既存の枠組みを越え、立体的な歴史像を描き出す画期的成果。
推薦文 石塚晴通(北海道大学名誉教授)
本書は、鎌倉時代から南北朝期の政治と結びつき密教活動を展開した栄海の全貌を、第一次資料の丁寧な読み解きに基いて解明した労作である。著者とは専門分野を異にする(著者は国文学出身、筆者は国語学出身)が、勧修寺調査等において共同作業を重ね原本重視の研究法を共有して来た。日頃の著者の精進を知る一人として、本書の刊行を慶び大方の精読を期待申し上げる次第である。
推薦文 上島享(京都大学准教授)
歴史家にとって、『真言伝』の作品研究なら手に取る必要はなかろう。文学作品としてさほど高い評価を与えられてこなかった『真言伝』を中心に据えることで、説話文学史を組み替えようとするのが本書である。作品論にとどまらず、時代や社会を射程に入れた中世文化論といっても良い。もちろん異論はあろう。ただ、中世文化を論じる上で、本書第1部(総論)での議論を知っておくことは必要である。