当麻寺の研究は、金堂本尊の弥勒仏坐像を中心とする創建期の研究と、曼荼羅堂の綴織当麻曼荼羅図研究とに二分されており、両研究にまたがる研究、つまり七世紀後半に当麻氏の氏寺として創建する当麻寺が浄土信仰の代表的な寺院として発展していく過程を全体的にとらえる研究はなかった。
一つの寺院に弥勒と阿弥陀の信仰がなぜ併存するのか、狭い伽藍の中に向きの異なる建物がなぜ建ち並んでいるのか、そして、綴織当麻曼荼羅図の発願者として伝わる中将姫に対する信仰はなぜ日本全国へ流布したのか。当麻寺の創建期の研究と当麻寺の信仰に関する研究、という大きな二本柱をたて、創建期の問題から、綴織当麻曼荼羅図を中心に浄土信仰の寺院として成立する当麻寺の全容を明らかにする。
*本書では、当麻寺の表記に関しては、常用漢字を使って「当麻寺」と記すが、例外としてタイトルのみ「當麻寺」とする。