カートは空です。
「生前中は、皆様より格別なご厚情、ご愛顧をいただき…」という遺族の挨拶に、違和感を持つ人はいない。東アジア世界が、「現世」を「生前」と認識してきたのは、過去世、現世、来世の三世のうち、「来世」に対する尋常でない関心の強さが背景にあるからであろう。そのような観念的虚構世界は、独自の固有性を保ちながらも、多くの共通点とともに、世界各域に数多く見出すことができる。広大なユーラシアの大地を媒体とする巨大な交流総体「シルクロード」が持っている文化交流の蓄積のなかに浮かび上がる、ひとびとの来世観。
白須淨眞(しらす・じょうしん)1949年生まれ。広島大学敦煌学プロジェクト研究センター研究員、 安楽寺住職。龍谷大学大学院文学研究科修士課程修了、博士(文学)。主な著書に、『忘れられた明治の探険家 渡辺哲信』(中央公論社、1996年)、『大谷探検隊とその時代』(勉誠出版、2002年)、『大谷探検隊研究の新たな地平ーアジア広域調査活動と外務省外交記録』(勉誠出版、2012年)、編著は『大谷光瑞と国際政治社会ーチベット、探検隊、辛亥革命』(勉誠出版、2011年)。最近の論考に、「前涼・張駿の行政改編と涼州・建康郡の設置」(高田時雄編『敦煌写本研究年報』8、京都大学人文科学研究所、2014年)がある。