西洋を学びつつも西洋本位の枠組にとらわれず、自己を生かそうと苦闘したロンドンの漱石―
そんな漱石に触発された日本留学の魯迅―
漱石の『クレイグ先生』を読んだ魯迅は仙台で習った藤野先生が懐かしくなった。
師弟関係の刺戟伝播こそ文化の伝播なのである。
「そのうちに中国から日本へとふたたび留学生が自由に渡航してくるような日があれば―その日が近いことを祈るが―そうした外国留学体験者は必ずや新しい目で魯迅の『藤野先生』を読み返すにちがいない。」
著者平川は漱石と魯迅の関係にふれつつ、文化大革命の最中にすでにそんな期待を述べていた。
本書は、中国一辺倒だった日本のチャイナ・スクールとは、品質も品格も違う、そんな自由な精神による日英中比較文学の先駆であり、古典である。来日した中国留学生が愛読したのはけだし当然であろう。