「信頼できる最大の批評家は読者である。それも日々の読者でなく、何代にもわたる読者である」ハーンの東大講義を引いて平川は結論する、「小泉八雲ことハーンを読者の今なお好しとしている」と。
日本人の心をとらえたハーンの魅力を鮮やかに蘇えらせた評伝
平川は小泉八雲ことハーンを論じて世界の第一人者で英仏でも研究書を出しているが、壮観は日本語の六冊(本著作集の第十巻から十五巻) だろう。読んで驚きに似た深い感動にとらわれたと一解説者は告白するが、学術作品がいずれも言語芸術作品に化している。
『新潮』誌上で第一作『小泉八雲―西洋脱出の夢』がハーンの五十四年の生涯をあらためて世に示した際、今は「物識り」の陰に隠されて古い「伝説のこころ」は見えなくなって了ったが、平川は面白い、と小林秀雄がいったと坂本忠雄編集長が述べている。読者も同感するのではあるまいか。