カートは空です。
覚鑁(かくばん)上人によって、大伝法院領荘園である弘田荘(和歌山県岩出市)に開かれ、頼瑜(らいゆ)が大伝法院の堂塔を移したことにより、新義真言宗の拠点として成立した根来寺。そこは単に「古刹」とするにとどまらない、多様な意義を有した寺院空間であった。この根来寺において著述・編纂された延慶本『平家物語』と紀州地域との関わり、その書物としての成り立ちを再検討し、延慶本という書物が存在した場のありかた、延慶本が持つ説話論的な多様性を明らかにする。
大橋直義(おおはし・なおよし)和歌山大学准教授。専門は中世日本文学・文献学。著書、論文に『転形期の歴史叙述―縁起 巡礼、その空間と物語』(慶應義塾大学出版会、2010年)、「巡礼記と縁起集―寺院空間の「歴史学」」(徳田和夫編『中世の寺社縁起と参詣』竹林舎、2013年)、『中世寺社の空間・テクスト・技芸―「寺社圏」のパースペクティヴ』(共編、アジア遊学174、2014年)などがある。