ジェンダー論から人間論へ
女性の霊的な力や心的な影響力の意義を論じた柳田国男の「妹の力」論。この思想は戦前戦後の民俗学の主要なテーマの一つとして展開されてきたが、近年、女性史・女性学研究の立場からさまざまな批判が繰り返されている。家庭内での女性の大きな役割や、その前提となる女性の男性に対する霊的優位性を否定し、「妹の力」の歴史的存在そのものをも認めまいとする主張もある。しかし、必ずしも柳田の主張が正しく理解されてきたとはいいがたい。
柳田は「妹の力」にどのような意図や主張を込めたのだろうか。
改めて時代状況のなかに置き直して考察するとともに、沖縄の「オナリ神」信仰や女性祭司と巫女、遊女、長崎のかくれキリシタン、中国古代の敦煌など、時代地域を異にする女性たちが担った独自の信仰の事例を多数提示し、女性の霊的な優位性を再検証する。
「妹の力」を男女の関係や現代社会のあり方を捉えなおす視座として提示するとともに、個人的な生にとって意義のある歴史の構築を目指した柳田国男の民俗学を問い直す画期的成果。