書籍や古器物の蒐集に明け暮れた「好古家」のコレクションから、19世紀の歴史意識に迫る
ヒト・モノ・情報の流通が成熟していった十八世紀半ば、それらをひたすらに集め、記録し、事物の起源・沿革に想いを馳せる人々が各地に現れてきた――古いものに強いこだわりをもった彼らは、「好古家」と呼ばれるようになる。
「好古家」たちは、明治の世を迎えてからも古いものへの関心を失うことはなかった。
前時代の学者に憧れ、それまでの学問蓄積やネットワークを引き継ぎつつ、
新しい学知やメディアをも使いこなすことで知識を深め、「江湖」に同好の士を求めていったのである。
ときに新聞・雑誌に載って共有・発信されたその営為の痕は、
いまも刊行物やコレクションとして遺され、歴史学をはじめとした人文学研究の基盤となっている。
幕末・明治という転換の時代を生きた一人の「好古家」に視座を置き、彼が遺した書簡や紀行文、
編纂物を手がかりとしてそのコレクションを紐解く。
そこから見えてくるのは、蒐集活動の実態と古いものへ注がれた熱いまなざしである。
大学という制度や学知が確立する以前の在野における歴史研究の実相とアカデミズムへの継承を描き出す画期的著作。