五万字以上もある楷書の字形が、乱れることなく現代まで保たれ続けているのはなぜか―
類似する楷書を広く弁別するために編纂された典籍「字様」。
字書とは異なる性格・構成をもつそれは、科挙制度とも深く結びつきながら楷書字形のあるべき姿を決めていった。
筆者の発見した典籍『正名要録』『群書新定字様』の精査から浮かんでくる「字様」という概念を紹介する。
また『説文解字』の検討により、楷書の歴史を整理し、字体の規定の有り様を明らかにするとともに、「楷書」という東アジア漢字文化圏を支える文字体系の解明を目指す。