東大寺再興に大きく寄与した学僧弁暁の法会・唱導の実体を伝える根本資料
卓越した弁舌の才をもって東大寺再興に尽くした高僧・弁暁(1139~1202)。
その説法は、平氏に焼かれた東大寺再建の原動力となり、末法の世を悲しむ人々に救いを与えた。
後白河法皇をはじめ、都の公家たちは競って弁暁を招き、法要の説法を依頼したという。
大勧進・重源を支えて伽藍を再興し、尊勝院の院主となって華厳学を復活させ、晩年は東大寺生え抜きの別当に就任。
しかし「能説」として知られた弁暁の説法の内容は失われ、公家の日記に評判が残るだけだった。
ところが、遠く離れた金沢称名寺に残る中世の写本の中から、弁暁の説法の台本が見出された。鎌倉時代、鎌倉と奈良との学僧の交流の中でもたらされたものらしい。
近年の解読作業の結果、その数は130点余りに及び、東大寺再建にかけた弁暁の熱弁が蘇ってきた。
本書は、こうして新たに発見された弁暁の説草(説教の台本)を翻刻したものである。
弁暁の説法を通じて、鎌倉時代初期の東大寺再建運動にかけた人々の熱い想いを感じていただきたい。