江戸時代には書物を読むことのできる人びとが庶民にまで広がった。
その読書熱を支えた書物流通の拠点が貸本屋である。
読者の興味をそそり、見たことのない世界や名所旧跡へ連れ出す書物、隠された秘密や真相を解き明かす書物、便利性に満ちた生活実用書―。
これらをすぐに調えて手元に届けるのが貸本屋であった。
また、読書熱の高まり、さまざまなジャンルにわたる出版文化の広がりは、近世における創作の場においても、大きな影響を与えた。
特にその浩瀚な知識を自らの作品に注ぎ込んできた近世を代表する作家・曲亭馬琴の日記には、近世知識人と書物の関係をまざまざと伝える、特筆すべき内容がふんだんに含まれている。
長年にわたり諸資料を博捜してきた筆者が、江戸時代の貸本屋の展開、そして、書物と人びととのかかわりの諸相を描き出す書籍文化史論。