はやく上田敏『海潮音』以来、日本において長く愛誦され続けてきたフランス詩。
しかし、ルネサンスから現代まで、約五百年間の歴史の断層をつらぬいてたちのぼる歌の数々には、いまだ知られざる玄妙な音色が隠されている――
本邦初翻訳を含む、32名の詩人による63篇の詩篇を厳選し、作品の本質を捉えた10のテーマに分けて構成。
さらには、日仏の詩魂の交流を解き明かす全八章からなる重厚なエッセイを収載。
かのアンドレ・マルローの信頼を一身に集め、日仏の文化交流における多大な業績によりルネサンス・フランセーズ大賞を授与された著者が渾身の力を込め、
東西文明の共鳴のあるべき形を示した珠玉の詩華集。
【執行草舟 絶讃!】
竹本忠雄、九十二歳、老化と戦う日々の中に、「若き詩人」の情熱が燃え続けていることを強く感ずる。
私はあのダンテに倣って、「ここに新しき生が始まる」と云い切ることが出来る。
―『幽憶 新フランス詩華集』に寄せて
【刊行に当たって――著者よりのメッセージ】
人は知っていようか
パリ・オリンピック前夜祭で
「王妃斬首像」を大映しにした あの日 七月二十七日が
一七九四年の「恐怖政治」総仕上げの記念日だったことを?
勝ち誇る自由と進歩の象徴として 凶像はセーヌの流れに照り映え
「歴史の大河」は そこに 轟然と水しぶきを挙げていた。
だが さらに 人は知っていようか
そのかたわらに 「霊性の水無川」が
音もなく 透明に流れていたのを?
「ロンサールより偉大なるルネサンス詩人」ダ・ヴィンチに発し
「革命の深い夜空」に散ったサン=ジュスから
詩神ボードレールを経て
アンドレ・マルローに至るまで 五百年間
死と愛のあわいを透明に流れつづけた
この水無川の水音を 私は聴こうとした。
そして見届けたのだ―
いかなる日本との落ち合いで合流するかを。