この筆跡は誰のものなのか。
ホンモノなのかニセモノなのか。
由緒正しきモノなのか。
モノにまつわる世界で常に問われ続ける永遠のテーマである。
この「鑑定」という文化を、江戸時代の始まりより明治、大正、昭和に至るまで支えてきた人々がいた――古筆見(こひつみ)である。
その痕跡は、「極付き(きわめつき)」「折紙付き(おりがみつき)」という言葉や、博物館などでよく目にする「伝 〇〇」という表現に残されており、今なお我々のモノの見方にも大きな影響を与え続けている。
「古筆見」とその中心であった「古筆家(こひつけ)」はいかに成立・展開していったのか。鑑定書や鑑定印にはどのような種類があるのか。彼らの鑑定を現代の我々はどのように考えるべきなのか。
古筆家伝来の内部資料、菩提寺に残された資料や文物、さらには長期にわたる研究・蒐集の成果により、これまで纏まった記述のなされることのなかった古筆見・古筆家の営為や文化史的意義を多角的に明らかにする。