山田流箏曲家初代山川園松(1909~1984)が箏曲の重要な楽曲約100曲に対し、その音楽的特性と詞章を、専門の山田流のみならず地歌や生田流箏曲にも目配り
しながら詳細な解説を行ったもの。
本書は上下2巻からなり、上巻はⅠ古典編として古典的名曲の歌詞の解題・注釈を収録。
下巻には、「Ⅱ 初代山川園松作品編」、「Ⅲ 実技、楽理、教育編」、「Ⅳ 八橋検校と山田流の諸家」を収録し、音階・調弦・筝の手法など技術的解説から近世盲人文化の研究にとっても貴重な資料と証言を含む。
(推薦文)
初代山川園松(やまかわ・えんしょう1909~1984)師は、昭和の時期に、箏曲家として、また、作曲家として、活動を続けられた音楽家です。ご自分の専門である山田流箏曲だけでなく、地歌や生田流箏曲にも通暁しておられました。また、東洋音楽学会会員として、研究にも熱意を持ち続けられ、インドを4回も訪問するなど、アジアとヨーロッパの音楽も吸収されました。
山川師は、地歌・箏曲の演奏家たちが、曲の成り立ち、詞章のもつ深い意味を理解して演奏することを望んで、このジャンルの重要な作品ほぼ百曲に対して、その音楽的特性と詞章の詳細な解説を行うために、『箏曲要集』という著作に取り掛かりました。師が古稀を過ぎてからの、1980年のことでした。お若い頃に失明されたため、資料は点字になったものを使い、点字になっていない資料は家族の助けを借りて読み、その成果を自ら点字タイプライターに打ち込んで執筆されました。4年後の1984年9月には完成されましたが、その年の12月にお亡くなりになりましたので、この著作は公刊されることなく、山川家に置かれていました。
この度、国立劇場で邦楽の企画を担当してこられた、ご子息の山川直治氏が、残されていた原稿を整理され、上下2巻の著作として、父上の遺志を実現されました。上巻には、I古典編が、下巻には、「Ⅱ 初代山川園松作品編」、「Ⅲ 実技、楽理、教育編」、「Ⅳ 八橋検校と山田流の諸家」が、それぞれ収められています。
山川師は、日本文学にも、地歌・箏曲以外の邦楽のジャンルにも該博な知識をお持ちでした。こうした広い知識と深いお考えがあったので、それぞれの曲の解説では、使われている言葉の出典や他の用例、同じ詞章が使われている他の曲が、丁寧に説明されています。全体を読むと、それぞれの曲が決して孤立しているのではないこと、そして、箏曲が他のジャンルから孤立しているのではないことが分ってきます。これが、山川師が後世に伝えたかったことである、と私は信じます。また、Ⅳの検校に関する記述は、地歌・箏曲の成立と発展に貢献した盲人音楽家の姿を描いたもので、近世盲人文化の研究にとっても貴重な資料と証言を含んでいます。
徳丸吉彦(お茶の水女子大学名誉教授・聖徳大学教授)
*こちらの商品は二分冊(分売不可)となっております。