世界に誇る大長編・大傑作の完全版を初公開!
明治・大正・昭和の激動の世紀に、日本人はいかに苦難と苦悩の道を歩み、希望をつないできたか。時代の証言として描く近代精神史。
「これからはお前の中に生きるのだ」と言い残して死んだ父(ペール)との真の親子の恩愛の絆、その深い喪失感。実母の悲しい生涯と死。岳父と妾たちとその子供たちの複雑な家庭を守った義母の死。次郎たち夫婦の危機をもかえりみて、夫婦の絆の空白を見つめる。
2・26事件後、時代は不安をいっそう色濃くしてゆく。
*本巻「人間の運命11 夫婦の絆」は、新潮社版『人間の運命』第二部第三巻「夫婦の絆」(昭41・10初版)の著者訂正本を底本とし、やはり著者の校閲した新潮文庫版『人間の運命(五)』(昭51・4刊)を参照した。著者訂正本の見返しには、「(一九六五年九月末/訂正終り 光)」とあり、「よく書けていた」と記されている。なお、本巻末尾に見える次の付記は、削除するように指示されている。
(次郎は翌年(昭和十三年)の四月、義母との約束を果たすかのように、A社の特派員の名義をもらって、支那の戦場へ旅立った)(勝呂奏)