「作者」とは何か、「原本」とは何か
紫式部による日本屈指の古典文学作品として位置づけられる『源氏物語』。
しかし、その「作者自筆原本」は現存していない。
それではわたしたちの前に存在する数多の『源氏物語』は、本当に紫式部の作った源氏物語と同じものと証明できるのであろうか。
「作者」「原本」という幻想とロマンのなかで生成されてきた物語へのフィルターを可視化し、文学史を問い直す。
それぞれの作品が“今、その形で存在している”ということ。しかしそれは、必ずしも作者の「原本」を忠実に継承していることを意味しているわけではない。それが「原本」の姿を忠実に継承していると考えられたからこそ“今、その形で存在している”のである。
ならば『源氏物語』という作品は、どのような「願望」のもとに作られ、または形を変えながら、今わたしたちの前に存在しているのか。本書の目的は、まさにそうした〝正しい『源氏物語』〟の歴史的変遷について明らかにすることにある。(「はじめに」より)