この書は1298年、マルコが作家のルスティッケロに東方大旅行の見聞をヴェネチア方言で口述し、後者がそれをフランコ・イタリアン方言でまとめて成った。
たちまち広く流布するが、転写や訳出で使われる言語の問題によって、6種類の異本テキストが立ち並びつつ伝世した。その中で、1310年代、ボローニャのドミニコ会士のピピノ師がラテン語で訳出したピピノ本とその系統は、国際教養語であるラテン語のテキストなので信頼され、活版印刷の時代に入って早くも1485年[?]に出版され、頼るべき底本として最もひろく伝わった。かのコロンブスが世界周航に先だって、今回の覆刻本の僚本を所持し、欄外に多くの書き入れを残し、いまもセヴィラのコロンブス図書館に蔵されている。
本書はG.E.モリソンの旧蔵をへて東洋文庫に伝わり、朱墨印刷の美麗な稀本である。東洋文庫にはモリソン文庫以来、80余種類にのぼる《東方見聞録(世界の記述)》の異種刊本、異種訳出刊本を備えている。
【本シリーズの特長】
・国際的な東洋学の研究拠点として名高い「公益財団法人 東洋文庫」所蔵の貴重古典籍全三点を全編フルカラー原寸で影印。
・対象典籍の全編フルカラー影印は史上初。今後の研究の基礎図書となるものである。
・高精細な製版・印刷により、原本の質感を再現。筆致や書入、訓点までもが仔細に観察できる。
・対象典籍に通暁した斯波義信(東洋文庫文庫長)・平川祐弘(東京大学名誉教授)・平野健一郎(東洋文庫)による解題を収載。新知見を盛り込み、歴史的・文化的位置づけを明らかにする。