古今東西の言語・造形藝術・音楽に表現された人間の窮極の姿
『イソポ物語』『今昔物語』からデューラー『メランコリア』、ホーフマンスタール『イェーダーマン』…。
古今東西の説話・絵画・音楽に造詣のふかい碩学小堀桂一郎、珠玉の随想集。
【著者のことば】
『人文學隨想集 人間の境涯について』
「人間の境涯」とは、人間の社會的職業的羈絆や虛飾を一切洗ひ流し、その現存在を窮極の無一物にまで詮じ詰めた時に現れる姿である。どんな人にもその樣な極限の實存の姿がふと浮び上る時間的・空間的位相があるものだ。
さうした人間の限界的位相を訪ね求める旅の方便として、著者は古今東西の文學作品及び言語不通の柵に遮られぬ造形美術、時には音樂作品をも材料として、人々の表象する世界像を檢索する作業に携はつて來た。漫然たる道樂仕事ではあつたが、然し倦く事なく、樂しみながら孜孜として續けてゐた。
さうしてゐるうちに、本來の目標に達するための手段のつもりで集めてゐた材料自體が、何分優れた藝術作品といふ基準には叶ふものだから、如何にも面白い、魅力に富んだ寶藏の如き觀を呈することに氣がついた。
結果として、求めてゐた答よりも、答を導き出すために蒐集した材料を、先づひろげて人に見せたいとの欲求が表に出て來た。そこで御披露に及ぶことにしたのが本書を構成する諸章である。研究といふ樣な殊勝な志に出たものではないので題も隨想集とした。