青表紙本・河内本などの校訂を経ない、独自本文をもつ伝為家筆「梅枝」(鎌倉中期書写)および、青表紙系で、独自異文が見られる伝為相筆「紅葉賀」(鎌倉後期書写)をフルカラー影印。
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今、ここに蘇る『源氏』の鎌倉写本
甲南女子大学所蔵の『源氏物語』写本の存在が、全国各紙に一斉に報じられたのは、いまだ記憶に新しいところだが、その本が、早くも影印本となって出版されると聞く。収めるところの巻は「梅枝」と「紅葉賀」。前者には藤原為家の、後者には冷泉為相の筆に成るとの極札が付されているというが、これは伝称の域を出るものではない。けれど、私の調査しえた経験では、それぞれ鎌倉中期と後期に書写されたものであることだけは動くまい。
平安の写本を一点も残していない『源氏』の伝本状況にあって、この鎌倉写本の存在は貴重である。なぜなら、鎌倉まで遡ると、平安の伝本を直接写している可能性が出てくるからである。
仄聞するところ、米田明美教授の解説には、この二つの写本とも、それぞれに僚巻(もと一具のものとして書写された巻々)の存在なども指摘されているという。今後、当該写本が『源氏』の伝本研究にいかに寄与するか、今から楽しみである。
(関西大学教授 田中 登)