本書では、浄土三部経を略すことなく現代語に改めた。もっとも苦心したのは、繰り返される言葉を目で読んでも、抵抗なく読み進められるかという点だった。そのために詩歌の表現法にならって語句を繰り返し、改行を多くした。
また、経典の現代語訳では語注を別記するのが通例だが、それでは流れが途絶えて、経典の言葉にふさわしくない。本書では語句の説明も本文中に組み込むことで、あえて語注は付していない。全体には漢訳経文を忠実に現代語に改めたが、そうした広がりをもたせたため、書名を「阿弥陀仏と極楽浄土の物語」とした次第である。
極楽浄土への往生を願う信仰を浄土教というのだが、それが日本の歴史と文化に与えた影響は計り知れない。そこで本書では、「日本の浄土教と文化」というコラムを経典の区切りに挿入し、浄土庭園や阿弥陀三尊、古典文学で語られる極楽などを紹介した。
*浄土三部経とは・・・
阿弥陀仏と極楽浄土のことが説かれている浄土経典群の中で無量寿経・観無量寿経・阿弥陀経の三つをいう。それは平安末期から鎌倉時代初期の動乱の世に浄土宗を開いた法然(1133~1212)が主著『選択本願念仏集』の第一章で記したことに始まる。「正しく往生浄土を明かすの教へといふは、謂く三経・一論これなり。三経とは、一には無量寿経、二は観無量寿経、三は阿弥陀経なり。一論とは、天親(インドの僧)の往生論これなり。或はこの三経を指して浄土の三部経と号す」と。
以来、親鸞の浄土真宗、一遍の時宗など、日本の浄土信仰の根本に浄土三部経が置かれた。