松涛文庫本『熊野の本地』は縦31.6糎、横23.2糎の大型本で江戸時代初期に製作された、いわゆる奈良絵本の一本である。奈良絵本特有の古雅で素朴な描写とあざやかな彩色を備えた挿絵が美しい。奈良絵本の挿絵は通常、冊子体裁で一面か二面に描かれるところを松涛文庫本では三面から四面にも亙っての連続画面が多く、絵巻を彷彿とさせる画面構成となっており、また詞章に関しても、他の諸本に見られない特徴を有しており、『熊野の本地』大型奈良絵本として貴重な一本である。『熊野の本地』本文研究はもとよりお伽草子・奈良絵本研究の上で重要な資料である。