オウゴンノコトバ

黄金の言葉

和歌編
今西幹一 企画/五月女肇志・土佐秀里・針原孝之・山崎正伸 編
ISBN 978-4-585-03253-3 Cコード 0092
刊行年月 2009年12月 判型・製本 四六判・並製 312 頁
キーワード 上代,中古,中世,近世,近現代,和歌

定価:2,200円
(本体 2,000円) ポイント:60pt

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書籍の詳細

日本のうたごころを伝える言葉の結晶―
古代から現代までの代表的な名歌143を精選。わかりやすい作者紹介・歌意・鑑賞とともに傑作をあじわえば、日本人の感性・考え方・思想が見えてくる。中高生からわかりやすく楽しく読める和歌鑑賞へのいざない。

 

 

目次
第一部 上 代

八雲立つ出雲八重垣妻籠みに
八重垣作るその八重垣を 
あかねさす紫野行き標野行き
野守は見ずや君が袖振る 
よき人のよしとよく見てよしと言ひし
吉野よく見よよき人よく見 
北山にたなびく雲の青雲の
星離れ行き月を離れて 
近江の海夕波千鳥汝が鳴けば
心もしのにいにしへ思ほゆ 
旅にしてもの恋しきに山下の
赤のそほ船沖へ漕ぐ見ゆ 
大宮の内まで聞こゆ網引きすと
網子ととのふる海人の呼び声 
人言を繁み言痛み己が世に
いまだ渡らぬ朝川渡る 
家にありし櫃に刺し蔵めてし
恋の奴がつかみかかりて 
采女の袖吹き返す明日香風
都を遠みいたづらに吹く 
ますらをや片恋せむと嘆けども
醜のますらをなほ恋ひにけり 
春の野にすみれ摘みにと来しわれそ
野をなつかしみ一夜寝にける 
塩津山うち越え行けばわが乗れる
馬そつまづく家恋ふらしも 
世の中は空しきものと知る時し
いよよますます悲しかりけり 
世の中を憂しとやさしと思へども
飛び立ちかねつ鳥にしあらねば 
あをによし奈良の都は咲く花の
にほふがごとくいま盛りなり 
言ふことの恐き国そ紅の
色にな出でそ思ひ死ぬとも 
我が行きは七日は過ぎじ龍田彦
ゆめこの花を風にな散らし 
春の苑紅にほふ桃の花
下照る道に出で立つ娘子 
相思はぬ人を思ふは大寺の
餓鬼の後に額つくごとし 
君が行く道の長てを繰りたたね
焼き滅ぼさむ天の火もがも 
夕月夜心もしのに白露の
置くこの庭に蟋蟀鳴くも 
磯城島の大和の国に人二人
ありとし思はば何か嘆かむ 
筑波嶺に雪かも降らるいなをかも
かなしき児ろが布乾さるかも 

第二部 中 古

春霞たてるやいづこみ吉野の
吉野の山に雪はふりつつ 
五月まつ花橘の香をかげば
昔の人の袖の香ぞする 
ほととぎすなくや五月の菖蒲草
文目も知らぬ恋もするかな 
老いらくの来むと知りせば門さして
なしと答へて逢はざらましを 
いにしへのしづのをだまき繰り返し
昔を今になすよしもがな 
天の原ふりさけ見れば春日なる
三笠の山に出でし月かも 
思ひつつ寝ればや人の見えつらむ
夢と知りせば覚めざらましを 
色見えでうつろふ物は世の中の
人の心の花にぞありける 
たらちめはかかれとてしもむばたまの
我が黒髪をなでずやありけん 
世中にたえて桜のなかりせば
春の心はのどけからまし 
月やあらぬ春や昔の春ならぬ
わが身ひとつはもとの身にして 
秋来ぬと目にはさやかに見えねども
風の音にぞおどろかれぬる 
こち吹かばにほひおこせよ梅の花
あるじなしとて春を別るな 
三輪の山いかに待ち見む年経とも
たづぬる人もあらじと思へば 
隠れにし月は巡りて出でくれど
影にも人は見えずぞありける 
人の親の心は闇にあらねども
子を思ふ道に惑ひぬるかな  
袖ひちてむすびし水のこほれるを
春立つ今日の風やとくらむ 
桜花散りぬる風のなごりには
水なき空に浪ぞ立ちける 
春立つといふばかりにやみ吉野の
山も霞みて今朝は見ゆらむ 
年ふれば我が黒髪も白河の
みづはぐむまで老いにけるかな 
つつめども隠れぬ物は夏虫の
身よりあまれる思ひなりけり 
しのぶれど色に出にけり我が恋は
物や思ふと人の問ふまで 
会ひ見ての後の心にくらぶれば
昔は物も思はざりけり 
なけやなけ蓬が杣のきりぎりす
過ぎゆく秋はげにぞ悲しき 
八重葎しげれる宿のさびしきに
人こそ見えね秋は来にけり 
あさまだき嵐の山の寒ければ
紅葉の錦着ぬ人ぞなき 
秋の夜の月に心のあくがれて
雲居に物を思ふころかな 
暗きより暗き道にぞ入りぬべき
遥かに照らせ山の端の月 
物思へば沢の蛍もわが身より
あくがれ出づる魂かとぞ見る 
夜もすがら契りしことを忘れずは
恋ひむ涙の色ぞゆかしき 
夜をこめて鳥の空音にはかるとも
よに逢坂の関は許さじ 
年暮れて我がよふけゆく風の音に
心のうちのすさまじきかな 
おくと見るほどぞはかなきともすれば
風に乱るる萩の上露 
今はとて宿離れぬとも馴れきつる
真木の柱は我れを忘るな 
夕暮れは待たれしものを今はただ
行くらむかたを思ひこそやれ 

第三部 中 世

蘆の屋のしづはた帯のかたむすび
心やすくもうちとくるかな 
あらしふく真葛が原に鳴く鹿は
うらみてのみや妻を恋ふらむ 
願はくは花の下にて春死なむ
その二月の望月のころ 
こころなき身にもあはれは知られけり
鴫立つ沢の秋の夕暮 
夕されば野べの秋風身にしみて
鶉鳴くなり深草の里 
解き交へし井手の下帯行きめぐり
逢瀬嬉しき玉川の水 
庭の面はまだかはかぬに夕立の
空さりげなくすめる月かな 
月をこそながめなれしか星の夜の
深きあはれをこよひしりぬる 
さびしさはその色としもなかりけり
真木立つ山の秋の夕暮れ 
いまはとて衣をかけし竹の葉の
そよそよいかにかなしかりけん 
石河の瀬見の小河のきよければ
月もながれをたづねてぞすむ 
鵜飼舟あはれとぞ思ふもののふの
八十宇治川の夕やみの空 
志賀の浦やとほざかり行く浪間より
こほりて出づる有明の月 
見し夢にやがてまぎれぬ我が身こそ
問はるるけふもまづ悲しけれ 
あともなき庭の浅茅にむすぼほれ
露のそこなる松虫の声 
駒とめて袖打ち払ふかげも無し
佐野の渡りの雪の夕暮れ 
白妙の袖の別れに露落ちて
身にしむ色の秋風ぞ吹く 
藻塩草かくとも尽きじ君が代の
数によみ置く和歌の浦波 
したもえに思ひきえなむ煙だに
跡なき雲のはてぞかなしき 
見し人の面影とめよ清見潟
袖にせきもる波のかよひ路 
うすくこき野辺のみどりの若草に
跡までみゆる雪のむら消え 
朝日かげにほへる山の桜花
つれなくきえぬ雪かとぞ見る 
見わたせば山もとかすむ水無瀬河
ゆふべは秋となに思ひけん 
山は裂け海はあせなむ世なりとも
君に二心わがあらめやも 
よしさらば散るまでは見じ山桜
花の盛りを面影にして 
うき身とは思ひなはてそ三代までに
しづみし玉も時にあひけり 
旅人も皆もろともに朝立ちて
駒打ち渡す野洲の河霧 
梅の花くれなゐにほふ夕暮に
柳なびきて春雨ぞふる 
思ひたつ木曽のあさねのあさくのみ
そめてやむべき袖のいろかは 
あやしくも心のうちぞみだれゆく
物おもふ身とはなさじと思ふに 
今朝よりや春は来ぬらんあらたまの
年立ちかへりかすむ空かな 
ここにても雲居の桜咲きにけり
ただかりそめの宿と思ふに 
忘れじな一夜のふしの笹枕
人こそかりに思ひなすとも 
夕暮れの心の色を染めぞおく
突き果つる鐘の声の匂に 
海原や水巻く竜の雲の波
早くも返す夕立の雨 

第四部 近 世

鶯の声の響きに散る花の
静かに落つる春の夕暮れ 
思ふ人住むとはなしに早蕨の
をりなつかしき山辺の里 
秋の夜のほがらほがらと天の原
照る月影に雁鳴きわたる 
ほととぎす妻を恋ひつつ血あゆまで
鳴くなる声を聞けばわびしも 
天の原吹きすさみたる秋風に
走る雲あればたゆたふ雲あり 
しきしまの大和心を人問はば
朝日ににほふ山桜花 
心あてに見し白雲は麓にて
思はぬ空に晴るる富士の嶺 
霞立つ長き春日を子どもらと
手まりつきつつこの日暮らしつ 
大堰川かへらぬ水に影見せて
今年も咲ける山桜かな 
たちこめて高嶺は見えぬ遠山の
霞の上ににほふ月かな 
山里の松の声のみ聞きなれて
風吹かぬ日はさびしかりけり 
妹が背に眠る童のうつつなき
手にさへめぐる風車かな 
石の上ふりにし妹が園の梅
見れども飽かず妹が園の梅 
うつそみの人なる我や鳥けもの
草木と共にくちはつべしや 
蟻と蟻うなづきあひて何か事
ありげに奔る西へ東へ 

第五部 近現代

萩の花さきしあしたも萩の花
ちりし夕も君をこそおもへ 
くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の
針やはらかに春雨のふる 
ああ皐月仏蘭西の野は火の色す
君も雛罌粟われも雛罌粟 
髪ながき少女とうまれしろ百合に
額は伏せつつ君をこそ思へ 
ゆく秋の大和の国の薬師寺の
塔の上なる一ひらの雲 
鉦鳴らし信濃の国を行き行かば
ありしながらの母見るらむか 
つけ捨てし野火の烟のあかあかと
見えゆく頃ぞ山は悲しき 
牛飼が歌よむ時に世のなかの
新しき歌大いにおこる 
幾山河越えさり行かば寂しさの
終てなむ国ぞ今日も旅ゆく 
君かへす朝の舗石さくさくと
雪よ林檎の香のごとく降れ 
君にちかふ阿蘇のけむりの絶ゆるとも
万葉集の歌ほろぶとも 
東海の小島の磯の白砂に
われ泣きぬれて 蟹とたはむる 
りんてん機、今こそ響け。うれしくも、
東京版に、雪のふりいづ。 
鶏頭は冷たき秋の日にはえて
いよいよ赤く冴えにけるかも 
木に花咲き君わが妻とならむ日の
四月なかなか遠くもあるかな 
信濃路はいつ春にならん夕づく日
入りてしまらく黄なる空のいろ 
あかあかと一本の道とほりたり
たまきはる我が命なりけり 
紫の藤なみの花ふさながし
しづかに春の日は暮れにけり 
都べにいつかも出でむ春ふかみ
今日の夕日の大きく赤しも 
牡丹花は咲き定まりて静かなり
花の占めたる位置のたしかさ 
葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。
この山道を行きし人あり 
春さむき梅の疎林をゆく鶴の
たかくあゆみて枝をくぐらず 
桜ばないのち一ぱいに咲くからに
生命をかけてわが眺めたり 
かすがの に おしてる つき の ほがらかに
あき の ゆふべ と なり に ける かも 
ひとり来てわれのもとほるふる寺の
秋のひかりは水のごとしも 
春の夜にわが思ふなりわかき日の
からくれなゐや悲しかりける 
冬の日の眼に満つる海あるときは
一つの波に海はかくるる 
空ひびき土ひびきして吹雪する
寂しき国ぞわが生れぐに 
たちまちに君の姿を霧とざし
或る楽章をわれは思ひき 
日本脱出したし 皇帝ペンギンも
皇帝ペンギン飼育係りも 
楽章の絶えし刹那の明るさよ
ふるさとは春の雪解なるべし 
灰黄の枝をひろぐる林みゆ
亡びんとする愛恋ひとつ 
マッチ擦るつかのま海に霧ふかし
身捨つるほどの祖国はありや 
四万十に光の粒をまきながら
川面をなでる風の手のひら 

あとがき
索引

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