韻文/散文の二項対立の図式を問い直し、有機的な連環の中に捉え返すことにより、新たな文学史を描き出す。
本書を『古代散文文学引用史論』と題した理由は、通常「文学作品」に働いていると思われている「作家」の個性や、「時代性」という、言わば共時的・水平的な力に対して、個々の「作品」という孤立した在り方においてばらばらのものとして捉えるのでなくて、文学史を通して開き、インターテクストとして関係づけること、共通性を見出すことで、作品の意識下に働いているであろう通時的・垂直的な規制力、すなわち伝承の力の解明と、その伝承という規制力に沿いつつも、私自身の読解による新たな意味の生成の「場」に遭遇できるのではないかという、ささやかな期待と見通しによるものであった。文学史的に通して見るからこそ言えることは、多々あるのではないだろうか。本書は『古事記』から『土左日記』、『大和物語』、『源氏物語』、『堤中納言物語』および中世王朝物語を、そのような「引用の文学史」という発想で通し連ねているのである。
(「はじめに」より)