デンショウトゲンダイ

伝承と現代

民俗学の視点と可能性
加藤秀雄 著
ISBN 978-4-585-33004-2 Cコード 3039
刊行年月 2023年2月 判型・製本 A5判・上製 368 頁
キーワード 現代社会,文化史,民俗学

定価:8,800円
(本体 8,000円) ポイント:240pt

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書籍の詳細
伝承は、如何にして、いま・ここに存在するのか

伝承は消滅しつつある――諦念を含みこんだこの語りを耳にすることは多い。
そこには、伝承は旧来のあり方を保存したまま持続すべきであるという意識が横たわっている。
しかし、伝承とは、そもそも不変で静態的な存在なのであろうか。
伝えていく行為とその主体への視点から、伝承を変わりゆく動態的なものと捉え返し、人びとの生活世界における伝承の実態を子細に分析することにより、現代における伝承の力を問い直す視点を提供する意欲作。

 

 

目次
序章 本書の問題意識と課題
はじめに
第一節 本書の問題意識
一 近年の民俗学の動向
二 伝承の縮小
三 伝承の文化財化
四 消滅の語りを超えて
第二節 伝承研究の課題
一 伝承概念の問題点と可能性の提示
二 伝承の仕組みと動態性の把握
三 近代化と伝承
第三節 アプローチの方法と本書の構成
一 アプローチの方法
二 本書の構成


【第一部 伝承概念再考】
第一章 伝承の研究史
はじめに
第一節 『民間伝承論』以前
一 伝承に対するまなざしの萌芽
二 民俗学草創期における伝承概念の位置づけ
第二節 柳田国男の伝承観と伝承母体論
一 伝承の分類と特徴
二 伝承母体論とその問題点
第三節 現代民俗学と伝承
一 伝承母体論批判と個への注目
二 自治を支える伝承
小活
第二章 伝承概念の脱/再構築のために
はじめに
第一節 伝承をめぐる二つの立場
一 フィールドに伝承をみる、伝承からフィールドを考える
二 伝承概念への批判
第二節 「凍結」される伝承と行為論的伝承論
一 伝承の「凍結」
二 もう一つの伝承論と国民、民族の表象
三 行為論的伝承論
第三節 伝承概念の可能性
一 「ポストヒストリー」としての『民間伝承論』
二 伝承の歴史哲学
小活
第三章 伝承研究の現代的課題―柳田国男による自治論の再検討
はじめに
第一節 現代社会のシステムと伝承
第二節 柳田国男の自由主義批判
一 柳田による経済的自由主義批判
二 柳田における世代間倫理
第三節 眼前の事実としての自治
小括


【第二部 伝承の仕組みと動態】
第四章 役割交替と伝承の相関性―主婦権とトウヤのワタシ儀礼周辺から
はじめに
第一節 役割交替について
一 役割交替と伝承
二 役割概念と社会科学
第二節 ワタシの儀礼
一 主婦権とワタシ儀礼
二 トウヤのワタシ儀礼
第三節 伝承母体と伝承の変化
小活
第五章 伝承意識と伝承の変化―芸予諸島・鵜島の氏神祭祀を事例に
はじめに
第一節 芸予諸島・鵜島の概要
一 鵜島の生業
二 島外における労働
三 鵜島の信仰と伝説
四 鵜島の歴史
第二節 鵜島・宇佐八幡社の神祭
一 氏神と氏子の関係と一年の神祭
二 鵜島宇佐八幡社の大祭と当家・当組
第三節 氏神祭祀と伝承意識
一 テクストの蓄積と伝承意識
二 伝承意識と血縁/地縁
三 伝承意識と伝承の変化の共存
小活
第六章 伝承の仕組みと動態をめぐる考察―鵜島における〝歴史〟の構成
はじめに
第一節 伝承の仕組みと動態をめぐる先行研究
第二節 鵜島の〝歴史〟
一 古記録『家系日記』について
二 伝承・文書の編集と「日記」の結合
三 『家系日記』の具体的内容
第三節 鵜島の〝歴史〟にみる伝承の実態
一 編著者の関係性と歴史叙述への影響
二 「家系日記」「隠居之日記」「清兵衛の日記」の比較
三 鵜島の〝歴史〟をめぐる現状
第四節 伝承の仕組みと動態をめぐる考察
一 伝承の通時性と共時性
二 鵜島の〝歴史〟にみる「民俗学的原史」
三 出来事と伝承の関係性、その動態
小括

【第三部 現代社会と伝承】
第七章 伝承の変化に見る高度経済成長期―千葉県浦安市の事例から
はじめに
第一節 本章のフィールド
一 千葉県浦安市の概要
二 海と生業
三 海の汚染と埋め立て
第二節 浦安の伝承
一 海苔養殖と投網の技術
二 水神祭り
三 庚申講
第三節 伝承の変化に見る浦安の高度経済成長
一 人々の語りに見る環境の変化
二 漁業からの転業
小活
第八章 システムと伝承―平成の市町村合併を事例に
はじめに
第一節 平成の市町村合併と新自由主義
一 平成の市町村合併の背景
二 新自由主義と自治のゆくえ
第二節 民俗学の立場から
一 民俗学者は市町村合併をどう見たのか
二 平成の市町村合併から伝承を考える
第三節 システムと伝承の関係性
一 システムが伝承にもたらす影響
二 システムに抗する伝承
小括
第九章 伝承と自治の再生に向けて―震災被災地における中間集団と相互扶助
はじめに
第一節 創造的復興と被災地の現状
一 新自由主義と「創造的復興」
二 復興の主体をめぐって
三 被災地の現状
第二節 地域社会の自律性
一 普請と建設
二 中間集団
三 契約講について
四 契約講と相互扶助
第三節 伝承と自治の再生の萌芽
一 非常時に発現する相互扶助
二 地域の再編をめぐる課題
三 伝承と共助
小括
終章 本書のまとめと今後の課題
はじめに
第一節 伝承概念の問題点と可能性
一 伝承の静態的把握と動態的把握
二 伝承研究の問題意識と可能性
第二節 伝承の仕組みと動態性
一 集団・社会の維持と伝承の変化
二 伝承意識と伝承の変化
三 世代交代と出来事への着目
第三節 現代社会の中の伝承
一 伝承の変化に見る近代化
二 システムと伝承の関係性
三 現代における伝承の可能性
第四節 本書の結論
一 伝承の動態への注目
二 歴史と自治の主題化
三 システムと生活世界の対称性を回復する伝承
第五節 伝承研究の今後の課題
一 現代民俗学との関係
二 共の民俗学へ


参考文献
あとがき
初出一覧
索引
プロフィール

加藤秀雄(かとう・ひでお)
滋賀県立琵琶湖博物館研究部学芸員。民俗学専攻。博士(文学)。
1983年、大分県別府市生まれ。2012年、成城大学大学院文学研究科博士課程後期満期退学。
国立歴史民俗博物館機関研究員/成城大学民俗学研究所研究員を経て現職。
主著に『東日本大震災と民俗学』(共編、成城大学グローカル研究センター、2019年)、『柳田国男以後・民俗学の再生に向けて―アカデミズムと野の学の緊張』(分担執筆、梟社、2019年)、『犬からみた人類史』(分担執筆、勉誠出版、2019年)などがある。

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