「文」とは何か―
「文」という概念は、東アジアの文化史において特別に重要な意味をもち、また実に多様な役割を果たしてきた。
古代日本においても、中国の「文」に関する複層的な概念が早くから受容されたが、明治期になると、それ以前の「文」の概念は大きく様相を変え、「ブンガク(bungaku)」ということばはヨーロッパの「literature」等の訳語として現れ、現在に至るまでそれら欧米に傾倒した「文学(ブンガク(bungaku))」の意味によってまずは捉えられるという状況が続いている。
しかし、「文」の意義と歴史を考えてみるとき、東アジアに特有の意義をもって形成、継承されてきた伝統的な「文」の概念への問題意識なくしては、日本、そして東アジアの文化の本質に迫ることは不可能なのではないか。
近代以降隠蔽されてしまった「文」の概念の文化的意味と意義を再び発掘し、21世紀の現代に続く「文」の意味と意義を捉え直してみたい。
これが本書『日本における「文」と「ブンガク(bungaku)」』の出発点である。