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鎌倉幕府の文学論は成立可能か!?

真名本『曽我物語』テクスト論
神田龍身 著
ISBN 978-4-585-39045-9 Cコード 1095
刊行年月 2024年10月 判型・製本 四六判・上製 368 頁
キーワード 軍記,古典,日本史,鎌倉,中世

定価:4,180円
(本体 3,800円) ポイント:114pt

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書籍の詳細
「歴史」か「物語」か?

武士団の世界観、東国ならではの恋物語、縁起や唱導の言葉の引用、頼朝と曽我兄弟の弟・五郎との熾烈な言葉の応酬などの言語的実験…
中世東国のなんたるかを如実に体現した範例的・普遍的テクストであると言える真名本『曽我物語』。
そしてなによりも「歴史テクスト」としての自らを押し出したのが真名本という物語ではないのか。
一方、真名本と同じ事件を取材しながらも、まったくの反対方向を志向している『吾妻鏡』。
幕府の公的年代記であるがゆえに『曽我物語』よりも、史料的価値が高く見積もられている『吾妻鏡』であるが、果たしてその優位性は正しいのか。歴史テクストを歴史たらしめる言葉の構造とは何なのか。
真名本『曽我物語』と『吾妻鏡』という二つの作品の関係論、また『金槐和歌集』や『新古今和歌集』、『神道集』、『太平記』などさまざまなテクストを比較することにより、
鎌倉時代における文学の言語空間について考察する。

 

 

目次
本書の問題設定と方法論
   不可解な問題設定
   T字型構成の本書
   史実の問題

序章 鎌倉幕府の文学論は成立可能か!?
 1―『吾妻鏡』と『金槐和歌集』とはリンクする
   建暦三年十二月十八日/十九日・二十日
   『吾妻鏡』と『金槐和歌集』そして『新古今和歌集』
   実朝と後鳥羽院
 2―『吾妻鏡』と『金槐和歌集』という相互補助的テクスト
   従来の両テクスト関係論
   二所詣の歌・東国将軍の歌
 3―その他のアプローチ
   法の文学・街道の文学
   政治軍事都市鎌倉の二つのショット

第Ⅰ部 「法」と自爆テロ
第1章 真名本『曽我物語』入門
 1―真名本テクスト論のガイドライン
   はじめに
   真名本・訓読本・仮名本と『吾妻鏡』の解題
 2―真名本の梗概
   巻一―源頼朝物語と曽我兄弟物語の発端
   巻二―頼朝雌伏の時代と兄弟幼年時代
   巻三―頼朝と政子そして頼朝の挙兵
   巻四―十郎の元服と稚児五郎
   巻五―十郎の結婚と五郎の元服
   巻六―頼朝の巻狩一行を追跡する兄弟
   巻七―兄弟の死への道行
   巻八―巻狩二十番勝負と頼朝巻狩屋形
   巻九―兄弟討死と頼朝の裁定
   巻十―虎の兄弟鎮魂の旅

第2章 曽我御霊神の誕生
 1―源頼朝物語と曽我兄弟物語
   巻一と巻九の巻狩
   頼朝物語と兄弟物語の接近過程
   頼朝と五郎の対決
   兄弟の目的とは? 頼朝の心の揺れとは?
 2―五郎の自爆テロ
   「後代に名をば留め候はむ」=「御霊神」
   頼朝殺害計画=失敗のための失敗
 3―五郎の純粋敵討
   十郎と五郎という分身関係
   自壊する抽象的情熱
   偽父と継父
   「本朝報恩合戦謝徳闘諍集」という表看板

第3章 大将軍源頼朝の誕生
 1―頼朝と「法」
   私怨を生きる頼朝
   梶原景時の役割
 2―「法」なるものの現前
   一旦は許すとしたことの意味、ならびに「法」の執行問題
   暴力の連鎖を断ち切る最終暴力=法
 3―平家時代からと頼朝の時代へ
   訴訟を勧める人々
   訴訟まみれの助経
   敵討を黙認する人々

第4章 鎌倉幕府創世神話
 1―どこから語っているのか
   後家の活躍
   将軍親裁時代へのノスタルジー
   真名本の勇み足
 2―懐かしき人々
   和田義盛と畠山重忠そして梶原景時
   北条時政と地縁・血縁ネットワーク

第5章 補遺・東国テクストの表現構造
 1―東国なるもののガイドライン―鶴岡八幡宮の不在
   武門の棟梁頼朝と東国武士団
   上洛記事という例外
 2―幻想の巻狩空間
   巻狩二十番勝負の言葉
   巻狩屋形の言葉
 3―東国の信仰圏
   人々の篤き信仰心
   真名本は縁起物ではない
 4―街道論
   出会いと擦れ違い
   虎と街道

第Ⅱ部 歴史への欲望
第6章 真名本『曽我物語』という歴史テクスト
 1―「形見」=歴史記述の証拠資料―テクストの自己言及
   従来の「形見」論
   「自己言及」というパラドックス
   「水茎の跡」
   「太なる巻物二巻」
 2―文字テクストとしての「形見」
   討死現場で消尽される「形見」
   真名本=「太なる巻物二巻」
   「太なる巻物二巻」の全貌とは
 3―事件の「当事者」が「事前」に歴史評価するという狂気
   自らを「御霊神」に祀り上げんとする狂気
   抽象的情熱と「形見」


閑話休題 平安朝物語文学と真名本『曽我物語』
   「形見」を抹消する平安朝『竹取物語』
   『源氏物語』の終り方
   『竹取物語』/「赫屋姫伝説」

第7章 『吾妻鏡』/真名本『曽我物語』
 1―両テクストはリンクする
   「書状」(『吾妻鏡』)=「太なる巻物二巻」(真名本)
   従来の両テクストの関係論
 2―『吾妻鏡』における富士野の巻狩
   二代将軍源頼家の不吉な門出
   「法」の欠落
 3―双方向的テクスト論
   物語の言葉/歴史の言葉
   源氏将軍家の始原と終焉
   二つの東国テクスト

第Ⅲ部 真名本『曽我物語』とその周縁
第8章 「曽我語り」「唱導」の問題
 1―上方曽我語り
   実例
   盲人語りとは
 2―東国曽我御霊語りと真名本
   研究史概略
   真名本は「語り」では説明できない
 3―真名本=窮極の文字テクスト
   語りと文字テクストとの離反性
   文字テクストの審級

第9章 仮名本『曽我物語』という「物語」
 1―仮名本「形見」論
   伝奇的・呪的モチーフ
   「形見」の唯一性とは
 2―仮名本の物語構造
   頼朝物語一本
   メタファー優位の倒錯物語
   あらためての問題提起

参考文献
あとがき
プロフィール

神田龍身(かんだ・たつみ)
学習院大学名誉教授。東京実業高等学校非常勤講師。
早稲田大学大学院文学研究科博士課程後期退学。
単著として、『物語文学、その解体』(有精堂出版、1992年)、『偽装の言説』(森話社、1999年)、『源氏物語=性の迷宮へ』(講談社選書メチエ、2001年)、『紀貫之』(ミネルヴァ書房、2009年)、『平安朝物語文学とは何か』(ミネルヴァ書房、2020年)、『神田龍身初期論文集』(学習院大学研究叢書、2021年)などがある。

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